Vol.5 No.4 2012
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研究論文:調光ミラーガラスの開発(吉村ほか)−256−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)図4に、現在作製している全固体型調光ミラーデバイスの構造を示す[20]。ガラス等の透明基材の上に、透明導電膜(ITO)、酸化タングステン薄膜、酸化タンタル薄膜、Al薄膜、Pd薄膜、Mg-Ni合金薄膜を積層した構造をもっている。それぞれの膜の作製はマグネトロン・スパッタ法を用いて行っている。酸化タングステン薄膜は水素イオンを貯蔵するための層、酸化タンタル薄膜は電解質層、Pd薄膜は水素の出入りを促進するための層、また、Mg-Ni合金薄膜は鏡の状態と透明な状態に切り替わる調光層である。Al薄膜はバッファ層で、スイッチングの繰り返しによりPdが酸化タンタル層の中に拡散するのを防いでいる。作製したデバイス(大きさ3 cm四方)のスイッチングの様子を図4に示す。調光ミラー薄膜側に−5 Vの電圧をかけると、酸化タングステン薄膜中の水素イオンが移動してMg-Ni層が水素化し、20秒程度で鏡状態から透明状態に変化する。逆に+5 Vをかけると、Mg-Ni層から水素イオンが抜けて酸化タングステン薄膜に移動し、15秒程度で透明状態から鏡状態に変化する。調光ミラーデバイスでは、成膜を行う上で基板を選ばないという特徴がある。したがって、ガラス基板の代わりに透明なプラスチック基板を用いると、折り曲げることのできる調光ミラーフィルムも作製することができる。すでに、ガラス基板同様のスイッチングができるデバイスの開発に成功している[21]。調光ミラーフィルムが実用化できれば、既存のガラスに貼り付けるだけで調光ミラー特性をもたせることができるため、応用先を広げる上での意義は大きい。ただ、ガスクロミック方式の調光ミラーでは、大型のスパッタ装置を用いるだけで大面積のサンプルが容易に作成でき、またスイッチング速度についても、メートルサイズでも20秒程度で行えるのに対して、エレクトロクロミック方式の調光ミラーの場合は、サイズが大きくなるとスイッチングの速度が急激に遅くなり、当初は、例えば15 cm角程度でも1時間程度かかってしまうという欠点があった。これまでさまざまな手法を用いてこのスイッチング速度の向上に取り組み、現在は15 cm角のサンプルを30秒程度でスイッチングできるようになっている。しかし、より大型のエレクトロクロミック調光ミラーを実現するためには、さらなるブレークスルーが必要で、現在もエレクトロクロミック方式の調光ミラーにおける最も重要な課題として取り組んでいる。3 調光ミラーガラス実用化のため研究シナリオ調光ミラーガラスを実用化するためには、ガラスメーカーとの共同研究が不可欠である。ただ、「はじめに」でも触れたように、日本のガラスメーカーは2000年頃までに調光ガラスに関する研究を打ち切ってしまった歴史的な経緯があり、調光ガラスの研究開発を再開してもらうためには、このガラスが実用化可能であり、また実用化に値するガラスであることを認識してもらう必要がある。そのため、現時点でまだ解決できていない課題の解決を急ぐとともに、このガラスを用いた場合にどの程度の省エネルギー性能が得られるかを示していくことが重要だと考えた。サステナブルマテリアル研究部門では、単に部材そのものを研究するだけでなく、それらを用いた場合の省エネルギー性能についても実測するための専用の建屋をもっている。図5がその環境調和実験棟の写真で、名古屋にある産総研中部センターの中に建てられている。この実験棟の3階部分は1辺が約2.5 mの小さい部屋に分かれており、各部屋の南側に窓が一つあり、2枚の窓ガラスが装着されている。また、各部屋に同じ空調装置があり、それぞれの空調装置で消費される電力が個別にモニターできるようになっている。したがって、各部屋の窓にさまざまな種類の窓ガラスを装着することで、ある設定温度にした場合の各部屋の空調負荷を比較することができる。次章で紹介するように、建物に実装できる調光ミラーガラスを実際に作製してその省エネルギー性能を評価し、これまでの省エネルギーガラスと比較して、大きな冷房負荷低減効果があることを実証した。また、この実環境での測定を行うことで、材料の研究だけを行っている場合には得られないような重要な知見、例えば、省エネルギーガラスでは窓の方位がとても重要なことや、太陽光の入射条件をよく考慮する必要があること等がわかり、それらを材料開発にフィードバックすることで、より省エネルギー性能の高いガラスの開発に生かしている。一方、調光ミラー薄膜には、これまでにない新しいスイッチングができる材料として、建物用ガラス以外にもさまざまな用途がある。図6に代表的な応用先を示したが、これらの材料の実用化については、比較的簡単に商品化できるものから、かなり難しいものまである。我々も、最終的には、調光ミラーを建物や乗り物の窓ガラスとして実用化することを目指しているが、そこに至るまでの過程で、実用化できるものから順次製品化していくということも重要な戦略とし2.5 m 2.3 m 2.5 m 1.2m 1.6m S N 図5 環境調和実験棟

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