Vol.5 No.4 2012
37/72

研究論文:調光ミラーガラスの開発(吉村ほか)−255−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)用途によって変わるが、例えば、自動車のフロントガラスに用いるためには、透明時70 %以上の可視光透過率が必要で、現状でこの条件はクリアできていない。このレベルまで透過率を上げるためには、マグネシウム合金薄膜からなる調光層だけでなく、パラジウム層や保護膜層も合わせた多層薄膜全体の光学設計を行う必要があり、現在その開発に取り組んでいる。2.2 耐久性の改善調光ミラー薄膜材料では、その光学特性については、かなり実用に近い性能を持つものも得られるようになってきている。しかし、この材料の最大の問題点は、スイッチングの繰り返しに対する劣化が早いということである。例えば、図3(a)に示したのは、Pd/Mg4Ni薄膜について、アルゴンで4 %に希釈した水素ガスを用いて、スイッチングを繰り返した場合の波長670 nmにおける光学透過率の変化を示したものである。スイッチングの繰り返しに伴い、光学的な変化幅が段々と小さくなっていき、特に140回を過ぎてからは急激に劣化していることがわかる[16]。調光ミラーの実用化にあたっては、この耐久性の向上が最も重要な課題であり、我々もさまざまな試みを行ってきた。劣化はいくつかの要因が重なって起こっているが、一つは水素化・脱水素化の繰り返しにより、Mg-Ni薄膜の中のMgがPd層を抜けて表面に移動(マイグレーション)することにある。我々は、Ti等の金属薄膜をバッファ層としてPd層とMg-Ni層の間に挿入することで、このMgの移動を抑制することができることを見いだした[17]。図3(b)にみるようにバッファ層を挿入すると400回程度まで劣化が起こらなくなる。しかし、この試料でもその後急激な劣化が起こっている。これは水素化・脱水素化に伴う体積変化のために、Pd層がダメージを受けてしまうためである。これを防ぐにはある種の保護膜が有効で、例えば、Tiバッファ層を挿入した試料の表面にテフロン(PTFE)の保護膜を蒸着すると、1,500回程度まで繰り返しができるものも作製することができた(図3(c))[18]。とはいえ、実用的には10,000回程度の耐久性は必要であり、現在も耐久性のさらなる向上を目指した研究を続けている。2.3 エレクトロクロミック調光ミラーの実現調光ミラーをガスクロミックでスイッチングするためには、どうしても二重ガラス(ペアガラス)で使用する必要がある。用途によってはそれが難しい場合もあり、その場合には電気的なスイッチングが必要となる。エレクトロクロミック方式のスイッチングに関して、当初はアルカリ水溶液を用いたデバイスを研究したが、溶液を使用するデバイスでは、調光薄膜側にプラスの電位をかけるとマグネシウムが溶解してしまうことから、透明状態から鏡状態に戻すのに短絡するしかなく、実用的でないことがわかった。そこで我々は、溶液を用いない、全固体型エレクトロクロミック調光ミラーの開発を行った[19]。(c)(b)(a)PTFE/Pd/Ti/Mg4NiPd/Ti/Mg4NiPd/Mg4Ni透過率(%)01020304016001400120010008006004002000透過率(%)01020304016001400120010008006004002000透過率(%)01020304016001400120010008006004002000繰り返し回数Ta2O5 WO3 ITO Ta2O5 HXWO3 V Pd Al Al Pd ITO V -5 V +5 V ガラスガラス触媒層バッファ層固体電解質層イオン貯蔵層調光ミラー層透明導電膜水素化物Mg系合金透過率 (%)波長 (nm)25002000150010005000102030405060Mg6NiMg0.94Ca0.06Mg0.88Ti0.12図2 マグネシウム・ニッケル系調光ミラー(Mg6Ni)、マグネシウム・チタン系調光ミラー(Mg0.88Ti0.12)、マグネシウム・カルシウム系調光ミラー(Mg0.94Ca0.06)の透明状態における透過スペクトルの比較図3 スイッチング耐久性の比較(a)マグネシウム合金層とパラジウム層のみの調光ミラー薄膜、(b)バッファ層を挿入した調光ミラー薄膜、(c)バッファ層を挿入し保護膜(テフロン層)をコーティングした調光ミラー薄膜図4 全固体型エレクトロクロミック調光ミラーデバイスの構造と写真

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です