Vol.5 No.4 2012
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研究論文:調光ミラーガラスの開発(吉村ほか)−254−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)で実用化のめどが立たないということで、2000年頃にはいずれも研究が終了してしまい、いわゆる「死の谷」(「悪夢の時代」)に入り込んでしまっていた。その頃、筆者(吉村)が、この調光ガラスの研究を再び活発にする起爆剤になるかもしれないと着目した材料が「調光ミラー」である。調光ミラーは、1996年にオランダで発見された新しい調光材料[4]で、これまでの調光材料が、透明な状態から濃い青色に変化するのに対して、透明状態から鏡状態に変化するという特徴がある。鏡状態では太陽光を反射して遮蔽できることから、実用化すれば、これまでの調光ガラスよりも、より遮蔽性能に優れた窓にすることができる。調光ミラー薄膜の研究を進めるにあたっては、当初から、単に材料の研究を行うだけでなく、省エネルギー窓ガラスとして実用化するということを念頭において研究を進めてきた。この論文では、この調光ミラーガラスを実用化するために、どのように研究を進めてきたかを紹介する。2 調光ミラーを実用化するための課題産総研で調光ミラーの研究を始めた2001年当時、実用化するために解決しなければならない課題として、(1)光学特性の改善、(2)耐久性の改善、(3)エレクトロクロミック調光ミラーの開発等があり、これらに取り組んだ。2.1 光学特性の改善図1(a)に示したのが調光ミラーの基本構造で、調光層となるマグネシウム合金薄膜の上に薄い触媒層をコーティングした構造になっている。成膜直後の状態でマグネシウム合金層は金属状態なので鏡状になっているが、薄い水素を含む雰囲気にさらすと、パラジウムの触媒作用で調光層が水素化され絶縁体に変わって透明になる。次に酸素を含む雰囲気にさらすと、同じくパラジウムの触媒作用で水素化物中の水素が酸素と反応してH2Oとして引き抜かれ、金属の状態に戻って鏡状になる。このように鏡状態と透明状態がスイッチングする調光ミラー状態は、最初イットリウムやランタンといった希土類金属薄膜で見つかったが、その後、いくつかの新しい材料が見つかっている(表1)。2001年にアメリカで見つかったマグネシウムと遷移金属の合金は、希土類を含むものに比べて耐久性が高いと考えられることや、材料がより安価であることから、大型ガラスへの応用により適した材料と期待され、産総研でもこの材料に着目し、日本で最初に研究を開始した。ただ、この材料が見つかった当時は透明時における可視光透過率は20 %程度しかなく、色も焦げ茶色をしており、とても実用的に使えるものではなかった。産総研では、まず調光ミラーの透明時における可視光透過率を高める研究に取り組み、図1(b)に示したようなマグネシウムの比率の高いMg-Ni合金薄膜を用いることで、透明時の可視光透過率を50 %程度まで高くできることを見いだし[13]、実用化に向けて大きく前進することができた。ただ、調光ミラー層としてMg-Ni合金薄膜を用いると、優れたスイッチング特性をもった試料が得られるが、透明状態では少し茶色を帯びている。この系統の色は建物や乗り物の窓としてはあまり好まれない色とされている。そこで、この透明時の色を改善する研究を行った結果、調光層として、Mg-Ti合金[14]やMg-Nb合金[15]を用いると、水素化した場合に、およそ無色にできることを見いだした。ただ、Mg-Ti合金薄膜やMg-Nb合金薄膜は、透明時に無色ではあるが、可視光透過率はMg-Ni合金薄膜に比べて劣る。我々の研究グループでは、最近Mg-Ca[11]、Mg-Ba、Mg-Sr等[12]の合金薄膜を用いると、水素化時に無色であると同時に可視光の透過率も高くできることを発見した。図2に、それぞれの材料の透明状態における光学透過スペクトルを示す。マグネシウム・アルカリ土類金属系の材料は、これまでの調光ミラー薄膜のカテゴリーのものと異なり、いわば産総研オリジナルの第4世代材料と呼べるもので、その実用化が期待される。透過率および反射率の変化幅をどの程度に設定するかは透明状態鏡状態(b) Pd~4 nm(a)Mg-Ni~40 nmガラス基板マグネシウム・アルカリ土類金属合金Mg-Ca[11]、Mg-Ba[12]、Mg-Sr[12]産総研 2009年第4世代マグネシウム・遷移金属合金Mg-Ni[8]、Mg-Ti[9]、Mg-Co[10] 等ローレンス・バークレー研究所 2001年第3世代希土類・マグネシウム合金Gd-Mg[5]、Sm-Mg[6]、Y-Mg[7] 等フィリップス 1997年第2世代希土類金属Y[4]、La[4]等アムステルダム自由大学 1996年第1世代図1 (a)調光ミラーの基本構造と、(b)産総研で開発した光学特性に優れたマグネシウム・ニッケル系調光ミラー薄膜(Pd/Mg6Ni)表1 調光ミラー薄膜材料の種類
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