Vol.5 No.4 2012
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研究論文:西暦869年貞観津波の復元と東北地方太平洋沖地震の教訓(岡村)−242−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)宍倉正展, 澤井祐紀, 行谷佑一, 岡村行信: 平安の人々が見た巨大津波を再現する-西暦869年貞観津波-, AFERCニュース, 16 (2010).阿部 壽, 菅原喜貞, 千釜 章: 仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定, 地震, 43, 513-525 (1990).K. Minoura and S. Nakaya: Traces of tsunami preserved in inter-tidal lacustrine and marsh deposits: some examples from northeast Japan, Journal of Geology, 99, 265-287 (1991).宍倉正展, 澤井祐紀, 岡村行信, 小松原純子, Than Tin Aung, 石山達也, 藤原 治, 藤野滋弘: 石巻平野における津波堆積物の分布と年代, 活断層・古地震研究報告, 7, 31-46 (2007).澤井祐紀, 岡村行信, 宍倉正展, 松浦旅人, Than Tin Aung, 小松原純子, 藤井雄士郎: 仙台平野の堆積物に記録された歴史時代の巨大津波-1611年慶長三陸津波と869年貞観津波の浸水域-, 地質ニュース, 624, 36-41 (2006).佐竹健治, 行谷佑一, 山木 滋: 石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション, 活断層・古地震研究報告, 8, 71-89 (2008).行谷佑一, 佐竹健治, 山木 滋: 宮城県石巻・仙台平野および福島県請戸川河口低地における869年貞観津波の数値シミュレーション, 活断層・古地震研究報告, 10, 1-21 (2010).宍倉正展: 津波堆積物からみた869年貞観地震と2011年東北地方太平洋沖地震について, 日本地震学会ニュースレター, 23 (3), (2011).中央防災会議: 東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会報告, 中央防災会議http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/higashinihon/index_higashi.html (2011).[12][13][14][15][16][17][18][19][20]執筆者略歴岡村 行信(おかむら ゆきのぶ)1980年名古屋大学理学研究科修士課程修了後、通商産業省工業技術院地質調査所に入所し、日本周辺海域の海底地質調査に約24年間かかわり、海洋地質図を作成するとともに、地質構造の形成過程について研究してきた。2004年から活断層研究センターで津波堆積物の研究に参加、2009年から活断層・地震研究センター長。査読者との議論議論1 全般的コメント1コメント(富樫 茂子:産業技術総合研究所)この論文は、津波堆積物という地質学的な証拠を徹底的に明らかにし、これに地球物理学的手法を適用して過去の地震像を推定して、長期的な地震予測により防災に資する研究について、科学の社会貢献の方法を論じています。具体的には、1)津波堆積物の地質記録、歴史記録、観測記録等、時間スケールの異なるデータを統合し、地球物理的モデルとしてシミュレーションすることにより、過去の地震の復元モデルを提示し、現実に発生した地震によるモデルの検証を通じて、予測精度を向上させるという科学の方法論を示しています。さらに、2)研究途上であっても最新の研究成果を、社会に迅速かつ不確定性の範囲も含めて正確に周知し、現実的な防災対策に貢献するための方法を論じています。これらは、科学の社会貢献の方法論としての観点から、重要な問題を提起しており、Synthesiology論文として適切と考えます。査読を通じて、上記の方法論としての意義をより明確に記述するように修正されました。議論2 全般的コメント2コメント(小野 晃:産業技術総合研究所)古地震を復元するという研究目標を達成するために、津波堆積物の地質調査という要素的な研究と地球物理的な方法とを統合した地震モデル構築の手法は、優れた第2種基礎研究と思います。東北地方太平洋沖地震が起こる前に、この研究を高い完成度で仕上げていたことに敬意を表します。この研究で貞観地震が高い信頼性で復元されました。研究成果の周知が、今次実際に起こった東北地方太平洋沖地震と津波に対して時間的に十分間に合わなかったことは残念ですが、一方で、構築した地震モデルが直ちに現実の事象によって検証されたことは、全くの偶然であったにしろ、今後の大規模地震への我々の対応に大きな意義をもつものと思います。将来あると考えられる大規模な東海、東南海、南海地震とそれによる津波を高い信頼性で予測する上で、今回構築された地震モデルが大いに役立つと思います。議論3 地質学と地球物理学のアプローチコメント(小野 晃)この論文で何カ所か、産総研地質分野の役割、ミッション、あり方について言及されています。Synthesiology誌が広い分野の読者から読まれることを考えますと、論点を「産総研」に閉じるよりも、「地震学」あるいは「地震研究」に広げることはできないでしょうか。回答(岡村 行信)「地震学」あるいは「地震研究」の主流は地球物理学をベースとした研究で、産総研が進めいている地質学をベースとする研究は少数派でした。その少数派の研究が東北地方太平洋沖地震で注目されたわけですが、主流の研究者達も事前に警告を出せなかったことの原因解明や、そのことを教訓とした今後の研究の方向性を議論しているところです。この論文では、地質学をベースとする地震研究の重要性を強調し、また課題を議論することを目的としております。地震学全体のあり方まで論点を広げることは本題から外れるうえ、私自身にも荷が重い課題です。「はじめに」で産総研の地震研究と、地震研究主流との違いを簡単に追記しました。議論4 古津波研究についての科学の方法論としてのフローチャートの提示コメント(富樫 茂子)古津波研究についての科学の方法論としてやや一般化したフローチャートにしていただけると理解しやすいのではないかと思います。回答(岡村 行信)例を参考に、私なりにアレンジして、図2を作成しました。議論5 「迅速に客観的評価を行うシステムの整備」に関するアクションコメント(富樫 茂子)6章末尾の「迅速に客観的評価を行うシステムの整備」の提案に関してのアクションはどのようなものでしょうか?回答(岡村 行信)客観的評価は、地震調査委員会のような国の機関が行う必要があると考えられ、国の評価プロセスがスピードアップされることが最も効率的だと思いますが、その実現は簡単ではありません。もう一つの方法として、正しい津波堆積物調査の方法を論文化して公表することを進めています。各研究者が信頼性の高い調査結果を公表するようになれば、結果として信頼性の高い津波評価が早く社会に広まることになると期待しています。

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