Vol.5 No.4 2012
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研究論文:西暦869年貞観津波の復元と東北地方太平洋沖地震の教訓(岡村)−241−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)逃れることはできないであろう。また、今後どのような想定がなされようと、地震や津波への不安が消えることもないと考えられる。被害をできるだけ軽減し、不安感をできるだけ小さくするためにも防災対策を着実に実施していくことが求められるが、適切なレベルの対策を決めることは容易ではない。また、防災対策を進めても、自然災害に対する危機意識を持続させることも忘れてはならない。そのようなことを念頭に産総研地質分野の役割を考えると、やはり過去の地震についてできるだけ詳しい調査を行い、どのような地震がどこで発生していたかを明らかにしていくことと、その情報を社会に発信し続けることが最も重要なミッションであろう。過去の地震に関する情報とともに、現在の自然科学のレベルで解明できること、できないことを提示する必要がある。その上で、どのように対策を行うかを社会全体で考えていくことが必要である。産総研の研究成果が社会に広く活用されるためには、地震本部から国によって再評価され、周知されるシステムが今後も必要であると述べた。しかし、それだけでは地域社会全体に十分な情報が行き渡らない可能性が高いし、時間もかかる。地震本部の評価がどのような情報に基づいているのか、どのような課題があるのか等について自治体や地域社会等にもできるだけ詳しい情報を産総研から直接提供し、同時に情報交換を積極的に進めることも必要であると考えられる。さらに、国の評価が公表される前に自治体等への情報提供も考えてよいだろう。そのような、情報提供、情報交換を行うためには、県等の自治体との交流を定期的に行い、信頼関係を築いていく必要がある。同時に、日本列島の地質学的な特性等の、地質一般に関する知識もわかりやすく提供することによって、自然を理解し、さまざまな災害を想定した上で、日本の都市計画や国土利用の方法を考えていく必要がある。日本人は今までも数多くの自然災害による被害を受けてきた。その苦難を克服して今日の繁栄を築き上げてきた。例えば建築物の耐震性は世界的にも最も進んだレベルにあると考えられる。しかし、今の社会は全体として自然災害に対して脆弱になっていることは否定できない。その理由の一つに、自然への理解が足りなくなってきていることが挙げられるように思う。地質学に基づいた過去数万年からそれ以上の期間に起こってきた日本列島の変動を理解することによって、自然災害に対する心構えも根付くと期待される。そのために必要な情報を社会に提供していくことが、産総研地質分野のミッションであろう。謝辞貞観津波の研究は、産業技術総合研究所活断層・地震研究センターの、宍倉正展研究チーム長、澤井祐紀主任研究員、行谷佑一研究員、東京大学地震研究所佐竹健治教授らとの協力体制で実施されました。この研究の実施に当たっては、現地の地権者および関係機関にはご理解を頂き、ご協力をしていただきました。以上の方々に感謝いたします。評価を公表長期評価部会2010年2011年4月公表?国、地方、社会の防災対策大学・研究機関等総合基本計画調査観測計画調査観測データ研究成果地震調査委員会政策委員会宮城沖重点2005-2009年地震調査研究推進本部(文部科学省)研究国の評価周知図9 地震調査研究推進本部の役割文部科学省に設置された地震調査研究推進本部は、地震に関連した調査・研究機関の情報を収集し、再評価して将来発生する地震の規模や確率を公表している。地震調査研究推進本部:地震に関する基盤的調査観測計画http://www.jishin.go.jp/main/seisaku/hokoku97/s8kei.htm#1-1 (1997).宇佐美龍夫: 最新版日本被害地震総覧 416-2001, 東京大学出版会 (2003).石橋克彦, 佐竹健治: 古地震研究によるプレート境界巨大地震の長期予測の問題点−日本付近のプレート沈み込み帯を中心として−, 地震, 50, 別冊, 1-21 (1998).地震調査研究推進本部: 三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価の一部改訂についてhttp://www.jishin.go.jp/main/chousa/09mar_sanriku/index.htm (2009).平川一臣, 中村有吾, 原口 強: 北海道十勝沿岸地域における巨大津波と再来間隔, 月刊地球, 号外 28, 154-161 (2000).七山 太, 佐竹 健治, 下川 浩一, 重野 聖之, 古川 竜太, 広田 勲, 牧野 彰人, 野島 順二, 小板橋 重一, 石井 正之: 千島海溝沿岸域, 霧多布湿原において確認された巨大地震津波イベント, 月刊地球, 号外 28, 139-146 (2000).F. Nanayama, K. Satake, R. Furukawa, K. Shimokawa, B. F. Atwater, K. Shigeno and S. Yamaki: Unusually large earthquakes inferred from tsunami deposits along the Kuril trench, Nature, 424, 660-663, doi:10.1038/nature01864 (2003).佐竹健治, 七山 太: 北海道太平洋岸の津波浸水履歴図, 数値地質図 EQ-1 (2004).K. Satake, F. Nanayama and S. Yamaki: Fault models of unusual tsunami in the 17th century along the Kuril trench, Earth Planets Space, 60, 925-935 (2008).都司嘉宣, 上田和枝: 慶長16年(1611), 延宝5年(1677), 宝暦12年(1763), 寛政5年(1793), および安政3年(1856)の各三陸地震津波の検証, 歴史地震, 11, 75-106 (1995).吉田東伍: 貞観11年陸奥府城の震動洪溢, 歴史地理, 8 (12), 1033-1040 (1906).[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11]参考文献
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