Vol.5 No.4 2012
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研究論文:西暦869年貞観津波の復元と東北地方太平洋沖地震の教訓(岡村)−240−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)さくすることができる。一方で、信頼性が確認されていない研究途上の結果であることも忘れてはならない。マスコミは規模が大きな津波が予測されるという見解をすぐに取り上げるが、後になってその見解が否定された際には、その研究だけでなく、同様の研究に対する信頼性が低下する可能性がある。そのような混乱を避けるためにも、迅速に客観的評価を行うシステムが整備されることを期待する。7 地震前後の社会の変化東北地方太平洋沖地震の前は内陸地震が多発していたことから、日本社会では地震に対する意識は高かったと考えられるが、津波に対する意識は低かった。そのため、巨大津波が来襲する可能性があることの理解を得て、対策に結びつけるために、説得力のある研究結果を示す必要があり、津波堆積物調査を時間をかけて丁寧に行った。また、津波堆積物調査の結果を用いて津波規模を推定する際にも、地震や津波の規模を根拠なく大きくすることは説得力を失うことから、明確な証拠がある範囲での地震や津波の想定を行ってきた。地震発生後は、これらの方針が正しかったか疑問に思った時期もあった。しかし、明確な根拠を示さずに巨大津波の予測を公表しても、地震前に社会がそのモデルを受け入る可能性は低かったであろう。地震本部からの成果公表が地震に間に合わなかったことは極めて残念であるが、上記の研究方針は間違っていなかったと考えている。3月11日に東北地方の沿岸部を襲った津波によって、津波に対する不安が一気に高まった。地震前の国や自治体には、想定する地震の規模を十分な根拠もなく大きくすることに大きな抵抗があったが、地震後は最大規模の地震・津波を想定するという方針に変えた[20]。過去に実際に発生したことが確認された地震を想定するのではなく、これ以上大きな地震や津波は発生し得ないという最大規模の地震を想定するという方針である。地震の専門家は、どこまで想定規模を大きくする必要があるかについて、判断を迫られている。地震研究への要求が180度変わったといっても過言ではない。残念ながら、現在の地球科学は適切な最大の地震規模を決めることができない。結果として、必要以上に大きな地震および津波を想定する可能性が高い。最大の地震規模を適切に決める研究が必要とされている。8 今後の課題日本社会は東北地方太平洋沖地震の衝撃から当分の間プレート境界型プレート境界型正断層型正断層型津波地震型津波地震型国土地理院による2011年東北地方太平洋沖地震における津波浸水域砂質堆積物の分布から推定される869年貞観地震の津波浸水域(行谷ほか、2010におけるmodel10)869年貞観地震時の推定海岸線2011年の津波による砂質堆積物の到達限界2011年の津波による泥質堆積物の到達限界5 km0図7 地震前に想定した貞観津波の波源断層モデル(モデル10)[17][18]石巻平野から福島県北部までのデータに基づいて作成されているので、さらに北側および南側まで広がる可能性はあった。図8 貞観津波モデルで計算した浸水域と2011年東北地方太平洋沖地震の浸水域[19]貞観の津波堆積物分布域に基づいて計算した津波浸水域と、2011年の津波浸水域がおよそ一致する。

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