Vol.5 No.4 2012
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研究論文:西暦869年貞観津波の復元と東北地方太平洋沖地震の教訓(岡村)−239−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)きた。また、沈み込み帯で発生する海溝型地震についても主に歴史記録に基づいて評価が公表されていた。このように地震本部が地震の危険性を評価し、公表することによって、自治体や社会が危険性を認識し、対策を講じるという合理的なシステムが完成していた。先に述べた貞観地震の研究成果についても、2010年春に産総研から地震本部に研究成果が提出され、地震本部で約1年をかけて日本海溝全体の地震について評価の見直しが行われていた。東北地方太平洋沖地震が発生していなければ4月にも貞観地震の評価も含めて公表されていたと考えられる。公表されてもすぐに防災対策が実施できるわけではないから、被害軽減にどこまで役立ったかわからないが、少なくとも石巻平野、仙台平野、福島県沿岸に巨大津波が来襲する可能性があることを少しでも多くの人々に知ってもらえる機会にはなっていたはずである。地震本部からの研究成果の公表が間に合わなかったことをとても悔しく思ったし、成果の公表や周知をより迅速にできていれば、少しでも被害を軽減することができたはずであったという悔いは消えないであろう。一方で地震発生前に我々は何もやっていなかったわけではない。研究成果は逐次学会で発表し、その内容はマスコミの関心を受けて、新聞・テレビ等でも報道されたが、地域の意識改革や防災対策に結びつくことはなかった。数は少ないが宮城県で一般向けの講演も行った。参加者数は限られているが継続的に行っていれば、津波に対する意識を少しずつ変えることができたかもしれない。しかし、巨大津波の危険性を広く社会に警告することを産総研の研究者だけで行うことは能力を超えており、地震本部を中心とした情報伝達システムを活用することが最も効率的で効果的であると考えられる。地震本部を中心とした地震に関する情報の公表システムが存在する中で、そこからの最終的な評価が出る前に、自治体等が防災対策を積極的に推進することは困難であったと推定される。地震本部が国としての地震の警告を社会に発信するというシステムは、やはりとても重要で必要である。しかし、国としての情報発信だけに、慎重になって時間がかかるという欠点がある。重大な災害になり得る研究成果については、最低限の客観的検証を迅速に行って公表するようなシステムがあってもいいのではないかと考えられる。地震発生後、地震に対する社会の不安と関心が高まったため、多くの研究者による津波堆積物の調査や地震の予測に関する見解が、十分な検証がされる前からマスコミによって数多く報道されるようになった。しかし、研究途上の内容を社会に周知することには一長一短があると考えられる。長所はもちろん社会へ早く情報が流れることである。今回のような間に合わないという可能性をできるだけ小Mw8.3Mw8.3Mw8.4Mw8.4Mw8.4Mw8.4Mw8.3Mw8.3仙台平野石巻平野すべり量5 mMw8.3すべり量7 mMw8.4Model 5:d15L200W100u5Model 6:d31L200W100u5Model 10:d15L200W100u7Model 11:d31L200W100u7図6 貞観津波の波源モデルに基づいた浸水域の計算例(文献[17][18]より編集)図5のモデル5、6、10、11による石巻平野(上)と仙台平野(下)の浸水域。最終的にモデル10(右から2番目)を貞観のモデルとした。
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