Vol.5 No.4 2012
20/72

研究論文:西暦869年貞観津波の復元と東北地方太平洋沖地震の教訓(岡村)−238−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)岩石の力学的な性質は明らかになりつつあるが、物質の多様性、流体の存在等地震が発生している地下深部の条件は未知のことが多くあり、それらの自然の条件を完全に実験室で再現することは不可能である。そのため、実際に発生した地震のデータを解析することによって地震学は進歩してきた。津波堆積物等に基づいて過去の地震像を再現しても、それが正しいかどうかは、実際に地震が発生しないと検証できない。東北地方太平洋沖地震は、津波堆積物を用いた研究により過去の地震が推定されている場所ではじめて発生した巨大津波を伴う地震であり、古地震学的な研究の有効性が検証できる機会となった。地震規模からみると、マグニチュード8.4以上と推定した貞観地震のモデルは、東北地方太平洋沖地震の震源域よりかなり小さいものであった。しかし、仙台平野では津波堆積物の海岸線からの到達距離には貞観地震と東北地方太平洋沖地震とは大きな違いはない[19](図8)。さらに、東北地方太平洋沖地震によって形成された津波堆積物の調査から、津波堆積物(砂層)が形成された範囲より、津波(海水)は1〜2 km程度内陸まで浸水していることが明らかになってきた[19]。この知見は、津波堆積物の分布域から津波の規模を予測するために極めて重要である。この差を考慮して貞観地震の津波規模を再評価する必要があるし、他の海域での津波堆積物調査の結果にも適用することによって、津波規模の予測精度を向上させることができる。このように、東北地方太平洋沖地震によって、津波堆積物が過去の巨大津波の証拠として信頼性が高いこと、その存在を自然からの重大な警告として受け止めるべきであることも実証された。一方で規模予測に関しては不十分な面があり、課題が明確になった。6 地震研究の社会への周知兵庫県南部地震前は、関西では地震が起こらないとの思い込みがあったといわれるが、六甲山が活断層の活動によって隆起してきたことや、神戸でいつかは大地震が発生する可能性があることは、地震以前から活断層の専門家の間では知られていた。しかし、そのような一部研究者の知見は地域の防災に活かされることはなかった。研究者による地震に関する研究成果を社会の地震防災に活かすためには、研究成果を客観的に評価し、防災上重要な信頼できる情報として国が社会に提供する必要があると判断され、地震本部が設置された(図9)。兵庫県南部地震の後、活断層の危険性が広く認識され、その活動履歴を明らかにするための調査が実施され、その結果に基づいて地震本部から活断層評価として公表されて図5 貞観津波の波源モデルの計算例(文献[17][18]より編集)東北沖で沈み込む太平洋プレート上に異なる規模の断層面を想定し、津波を計算。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です