Vol.5 No.4 2012
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研究論文:西暦869年貞観津波の復元と東北地方太平洋沖地震の教訓(岡村)−236−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)4 貞観津波の復元西暦869年の貞観地震によって発生した津波(以下、貞観津波と呼ぶ)を再現するための調査研究は、野外での津波堆積物調査、地質試料の分析、津波波源モデルの構築からなる。津波堆積物という地質学的な証拠を徹底的に明らかにし、地球物理学的手法を適用して過去の地震像を推定することが、産総研の古津波研究の大きな特徴である[12](図2)。野外調査では津波堆積物の分布域を明らかにする。津波堆積物がうまく保存されているかどうかは、さまざまな自然条件やその後の人間活動が関係していることから、現場で数多く掘削することが重要である(図3)。多くの地点でのデータを積み上げることによって、津波堆積物の分布域を精度よく確認することができる。また、見かけが同じでも年代が異なる津波堆積物が複数枚存在することから、それらを間違いなく対比するためにも、密度の高い調査が必要となる。同時に波源モデルの信頼性を向上させるためには、できるだけ広域的な調査が必要である。貞観の地震と津波については、吉田が1906年に歴史記録を考察し、注意を喚起した[11]。仙台平野で貞観津波によって形成された津波堆積物が1990年以降に報告された[13][14]。それらの調査結果を参考にしつつ、石巻周辺から福島県北部まで調査範囲を広げて津波堆積物の分布を明らかにするとともに、当時の海岸線位置を復元した(図4)。石巻では現在の海岸線から5 km以上内陸で貞観津波の堆積物が見つかった[15]。貞観以前の津波堆積物も少なくとも2層が、また貞観後にも2層の津波堆積物が確認できた。石巻平野は過去数千年間で次第に広がってきており、貞観津波来襲時には現在の海岸線より約1.5 km内陸に海岸が位置していたことも明らかになった。仙台平野では現在の海岸線から4 km以上内陸まで津波堆積物が分布すること、当時の海岸線は1〜1.5 km内陸にあったこと等が明らかになった。貞観の津波以前にも3回以上の、貞観後は少なくとも1回の津波浸水があったと推定された[16]。野外調査で得られた津波堆積物の分析によって、津波発生年代および地震に伴う地殻変動を推定することができる。年代を推定するため、津波堆積物の上位と下位に分布する泥炭層中から植物の破片を取り出して、放射性炭素14Cを測定した。この年代測定法は測定試料の選び方によって大きな誤差が出てしまうため、測定試料の選定に十分な配慮を行っている。年代測定の結果、津波堆積物はおおよそ500年程度の間隔で形成されていることが明らかになった。また、堆積物中の珪藻化石を分析することによって、福島県北部では貞観津波およびその前の津波発生時に沈降したことも推定した。これらの津波堆積物分布域まで浸水する津波を発生させた地震の震源位置と規模を数値シミュレーションによって推定した。津波堆積物の分布域だけから震源域の位置を決めることは難しいので、日本海溝沿いで過去に発生したことのある地震を参考に、異なる地震のタイプと規模を想定し、それぞれの断層モデルについて震源位置と地震規模を変化させ(図5)、それぞれ浸水域を計算し、津波堆積物の分布域と比較した(図6)。その結果、津波堆積津波の波源モデル構築と数値計算貞観津波モデルの構築→宮城・福島沖でマグニチュード8.4以上地震災害軽減モデルの検証と課題の認識規模・周期・影響の推定宮城沖への系統的な展開調査・解析法の開発2011年東北地方太平洋沖地震北海道太平洋岸の津波堆積物研究→巨大津波の再現平川ほか2000、七山ほか2000、AIST 2004869年貞観地震Minoura & Nakaya 1991阿部ほか1990津波堆積物の発見吉田(1906)歴史記録地球物理学的解析広域的津波堆積物の分布当時の海岸線位置の復元津波堆積物年代測定→ 500-600年間隔珪藻化石分析→ 津波発生時の地盤沈降地質学的調査・解析東北地方太平洋沿岸の巨大津波研究予測精度の向上 広報・防災対策図2 過去の巨大津波に関する研究の進展

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