Vol.5 No.4 2012
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研究論文:マンモグラフィの安全を支える線量計測(田中ほか)−233−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)今回の国際比較では、産総研を含めたすべての機関が仲介器を利用した比較方法を採りましたが、仲介器の選択に産総研独自の特色があります。産総研以外の機関は、マンモグラフィのエネルギー領域において、エネルギー特性がフラットな仲介線量計を1種類のみ選択しました。一方、産総研では、エネルギー特性の異なる3種類の仲介線量計を選択し、より綿密な比較を行いました。その結果、3種類すべてにおいて国際度量衡局と十分な整合性を確認することができました。議論6 この研究のアウトカム質問(小林 直人)この研究のアウトカムについてお聞きします。今回、新たに低エネルギーX線の線量評価の標準の確立と供給ができるようになったわけですが、このことにより、どのような実質的なアウトカムが期待できるでしょうか。例えば、マンモグラフィの信頼性が上がり、受診率が上がる等の期待ができるでしょうか。もしそうならないとしたら、さらにどんな工夫をすれば、マンモグラフィの社会的普及に繋がると考えられますか。回答(田中 隆宏)この標準の開発により、マンモグラフィの線量評価の信頼性が向上しました。マンモグラフィ装置のメーカー各社は、低線量で高画質な装置の開発に努力しています。この標準では画質向上への貢献は難しいのですが、低線量化への寄与が期待されます。線量の定量的な評価には、線量標準が必要不可欠となるからです。また、産業界、大学、学会等から共同研究のお話を数多くいただき、マンモグラフィの線量評価の高精度化に向けた研究を現在進めています。今後、これらの共同研究の成果の活用によってもマンモグラフィの低線量化に寄与できると期待しています。議論7 研究目標に向かってのシナリオコメント(小林 直人)当初図4のシナリオの図は一般的なX線線量計測の標準確立と精度向上の図になっていました。せっかくこの論文に詳述した今回のマンモグラフィ用X線の線量評価確立・供給のシナリオが、十分に記述されていないと思います。マンモグラフィ用X線線量評価でこの研究は次のような特徴があると思います。これらを、シナリオの中にどのように位置付け対応を行ったかを付け加えて、今回の目標を達成するためのシナリオの図を示すのが良いと思います。(1)国家標準器は既存の軟X線(W/Al線質)用のものを活用し、国家標準器の補正係数をマンモグラフィ用X線の線質で新たに評価した。(2)(1)については、技術的な新しさはないが、その際モンテカルロ計算で測定結果および不確かさに致命的な影響を与えないことをあらかじめ確認した。(3)マンモグラフィ用の線質に最適化された標準器を始めから開発し、高精度を狙うよりは、精度を多少犠牲にしても、既存の標準器を用いた標準確立・供給の早さを重視した。(これはとても重要な研究開発戦略と言えましょう。)(4)医療現場におけるマンモグラフィ装置の線量評価の信頼性の向上を目標に設定した。そのため照射のジオメトリがマンモグラフィ装置と近い線量標準の開発に努め、医療現場での線量評価の不確かさ低減を目指した。(5)さらに標準供給にあたっては、医療現場で利用されていたガラス線量計に着目し、ガラス線量計を産総研の線量標準で評価することにより、多くのマンモグラフィ装置の線量評価に対して信頼性の向上を図った。回答(田中 隆宏)ご指摘いただいたこの研究の特徴が明確になるように、シナリオの図を改訂しました。また、第4章以降の章立ておよびこの論文を、シナリオの図に沿うように改訂しました。議論8 この研究における標準の技術的特徴質問(小林 直人)確認の意味で、次の質問をします。これまでのX線線量標準との違いは、以下の理解でよいでしょうか。①人体への放射線の影響をできるだけ低減するため、80 keVではなく30 keV程度の低エネルギーであることが必要。また、そのエネルギー領域のX線の単位長さあたりの吸収量(阻止能)は、中エネルギーX線よりも大きく、物質通過中にエネルギーが大きく変化するので、乳房組織と病巣との間に十分なコントラストを得ることができる。一方で、X線量評価の精度が下がるので、特別の工夫が必要である。②30 keV付近のX線発生には、モリブデンターゲットとモリブデンフィルターが使われるので、そのエネルギースペクトルは単色に近くなり、物質に吸収後のエネルギースペクトルがW/Alを利用する80 keV付近のX線とは大きく異なる。回答(田中 隆宏)ご理解のとおりだと思います。乳房組織と病巣との間に十分なコントラストを得るためには、これまでの一般撮影よりも低いエネルギーがマンモグラフィでは必要となります。線量計の感度が変わりやすい低エネルギー領域のX線の線量計測では、一般撮影用X線とマンモグラフィ用X線の線質の違いが線量評価の精度に影響します。マンモグラフィ用X線の線質の特徴について、この論文を改訂しました。
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