Vol.5 No.4 2012
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研究論文:マンモグラフィの安全を支える線量計測(田中ほか)−232−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)スを活用したり、現行の体制を活用したりといった工夫が、研究開発を通常よりも迅速に進める鍵になったと思います。既存のリソースを活用したり、現行の管理体制の中に組み込んだりした際に、著者らが留意したことがあれば他の研究者の参考になると思いますので披露してください。今回の経験から得た著者らの教訓といったもので結構です。回答(田中 隆宏)既存のリソースを活用する場合の留意点は、そのリソースの可能性と限界を見極めることだと思います。つまり、この研究の場合のリソースである自由空気電離箱が、マンモグラフィの線質に対して国家標準としての性能を十分に発揮するかどうかの見極めが、研究者に求められるのではないかと考えられます。この見極めができるかどうかが本格研究の成否に関わってくると考えています。また、標準供給体制の構築に際しては、産業界や学会から線量評価の状況を広く把握することが重要であると考えています。そして、最終目標であるトレーサビリティを現行の管理体制の中に組み込むことに対して、産総研と産業界・学会の双方に強い意気込みがあったと思います。議論3 克服した技術的課題質問(小林 直人)この研究の目標を達成するための技術的課題に関して質問します。今回のマンモグラフィ用X線は約30 keVの低エネルギーであることが特徴ですが、線量標準確立のため既存の自由空気電離箱の補正係数を決定するという方法で行ったことが技術的ポイントだと思います。しかし、その際の克服した困難な課題が何だったのでしょうか。また、これまでの標準電離箱A、B、Cの校正定数には大きな違いがありますが(図3参照)、この差の理由は何なのでしょうか。回答(田中 隆宏)この標準開発において、いくつかの技術的課題はありましたが、特筆すべきものではありません。その理由は、これまでに産総研に蓄積された、低エネルギーX線の線量計測開発技術を応用することで十分解決できると判断したためです。具体的には、国家標準器は既存の軟X線(W/Al線質)用のものを活用し、国家標準器の補正係数をマンモグラフィ用X線の線質で新たに評価しました。モンテカルロ計算によって、測定結果および不確かさに致命的な影響を与えないことが開発の初期段階で確認できたため、標準の開発にはこの方法を採りました。この方法以外に、マンモグラフィ用X線に特化した国家標準器を新規に開発する方法もあります。例えば、マンモグラフィの線質に最適化された(補正量が小さい)自由空気電離箱の開発です。これは、モンテカルロ法等で補正係数を計算し、自由空気電離箱の設計にフィードバックさせ最適化していく方法です。国際度量衡局はこの方法でマンモグラフィの線量標準を開発しました。当然、最適化した標準器を開発した方が不確かさは小さくなります(95 %の信頼度で不確かさは、産総研が約0.6 %、国際度量衡局が約0.4 %)。その反面、開発期間が長くなります。かなり極端な例にはなりますが、国際度量衡局は2001年に開発に着手し、2009年から国際比較を開始しています。この標準のように社会的要望に迅速に応える場合には、最短の開発期間が最も大きなメリットであると判断しました。これ以外の技術的課題としては、医療現場におけるマンモグラフィ装置の線量評価の信頼性の向上があります。産総研や海外の国立計量研究機関で構築されている標準場と実際のマンモグラフィ装置とは照射ジオメトリが違うため、医療現場での線量評価の不確かさが大きくなります。マンモグラフィでは、医療用放射線の中でもかなり低いエネルギーのX線が利用されています。このような低エネルギーでは、線質の違いに加えて、照射距離や圧迫板の有無等、照射のジオメトリの違いが線量評価の不確かさに大きく影響します。そのため、照射のジオメトリがマンモグラフィ装置と近い線量標準の開発に努め、医療現場での線量評価の不確かさ低減を目指しました。なお、この照射距離と圧迫板を考慮したことは、海外の標準には見られない産総研独自の取り組みです。ただし、この標準の国際的な整合性の確保にも留意し、IEC規格に準拠した線質の整備も同時に進めました。図3の線量計A、B、Cの校正定数の違いですが、X線の入射面の材質や中の構造の違いが主な原因と考えられます。精度の高い線量計として知られている電離箱線量計においても、このように校正定数のエネルギー依存性に大きな違いが見られるのが、低エネルギーX線の大きな特徴です。この論文に説明を加えました。議論4 標準供給体制の確立のための新たな試み質問(小林 直人)標準供給体制について、今回新たな校正装置をつくることはせずに、校正事業者が顧客から校正の依頼を受けた線量計を産総研に持ち込んで校正(照射依頼試験)を行うことで、標準供給をスムーズに行うことができたとあり、実例としてガラス線量計の例が挙げられています。これに関してこれまでにない新たな試みや工夫はなかったのでしょうか。当たり前で、特に困難なこともないような印象を受けましたが、実態はどうだったのでしょうか。回答(田中 隆宏)線量計の校正によるこれまでの標準供給体制に加えて、それまで医療現場で利用されていたガラス線量計の評価によって信頼性向上を図ったことがこの研究の大きな特徴です。標準の開発当初の予定では、線量計の校正を介したこれまでの標準供給方法を考えていました。つまり、①校正事業者等の所有する線量計を産総研で校正し、②その校正された線量計を標準器として、校正事業者のX線標準場でユーザーの線量計の校正をする、という流れを想定していました。ただし、この供給方法の場合、マンモグラフィの線質がそれまでの校正に使われていたX線と異なるため、①だけでは不十分で、②においてもマンモグラフィの線質のX線場が必要となります。しかし、標準に対する要望があるといっても、X線照射装置の導入に伴う設備投資は大きな負担になるという声が校正事業者から挙げられました。そこで、産総研の照射装置を校正事業者に利用してもらうことにより、円滑な標準供給に努めました。また、国内に流通しているマンモグラフィ用線量計が1000台程度と推定されているのに対して、校正事業者は数社しかないため、広範な標準供給にはさらなる工夫が必要と考えました。そこで、この標準の開発当時からすでに医療現場の線量評価に広く使われていたマンモグラフィ用ガラス線量計に着目しました。ガラス線量計を産総研の線量標準で評価することにより、多くのマンモグラフィ装置の線量評価に対して信頼性の向上が望めると考えました。ガラス線量計の評価をこの標準で行った際、苦労した点が一つあります。ガラス線量計は、蓄積された線量の情報を読み取るための専用のリーダーが別途必要となるため、照射したその場ですぐに線量が分かりません。産総研の標準場でのガラス線量計の照射と、照射データの読み取り・解析が分離していたため、不確かさの評価等、一つ一つの課題の克服に時間がかかったことが苦労した点です。また、このマンモグラフィ用ガラス線量計は日本独自の線量計であり、高いポテンシャルを秘めていると考えています。議論5 国際比較における諸外国の状況コメント(小林 直人)今回の国際比較では、図9にみられるようにとても良好な結果が得られています。産総研は、世界のトップバッターとして参加し、良好な結果が得られていることは、国家標準の国際的同等性の検証ができたことであり、その意義は極めて大きいものがあります。そこで今回参加した諸外国の状況(検出器の種類や性能等)を合わせて述べていただけると、産総研の質の高さもより一層注目されると思います。回答(田中 隆宏)

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