Vol.5 No.3 2012
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研究論文:地球観測データの統合的利用のための国際連携(岩男)−156−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)筆者は、政府間会合への人的貢献の一環で、産総研から日本政府を通じ2009年4月から2011年3月までの約2年間、専門家職員として政府間会合事務局の活動に従事してきた。この事務局は世界気象機関の建物内にあり、職員は準国連職員扱いである。筆者の在任期間中、米国からは地質調査所と海洋大気局、欧州からは欧州宇宙機関(ESA)、ブラジルからは国立宇宙研究所、南アフリカ政府、中国気象局、韓国気象局、および日本からは筆者の他に宇宙航空研究開発機構から職員が派遣されていた。これら派遣職員とともに事務局長を含む数名の直接雇用職員の総勢20名弱でこの事務局を構成した。4.4 共通基盤全球地球観測の「システム・オブ・システムズ」の実現のため、世界各国の地球観測機関が提供するさまざまな観測データやサービスを利用可能とする共通基盤を構築することが地球観測に関する政府間会合にとって最重要課題であった。共通基盤の構築にあたっては、これまでどおり各機関が地球観測データやサービスをそれぞれ分散管理することを前提とした。共通基盤には各機関が提供するデータやサービスに関する情報を登録し、共通基盤を通じて各機関のデータやサービスにアクセスする。すでに各機関が運用している観測システムや情報システムの統合のようなことは求めないという全球地球観測システム(GEOSS)の基本理念[10]を採用した。3章で述べたシナリオに沿って、共通基盤を3つの基本要素で構成した。すなわちウェブポータル、クリアリングハウス、コンポーネントおよびサービスレジストリである。これらの要素を組み合わせて、図3に示したような共通基盤全体を実現した。4.5 共通基盤構築に当たっての問題理想的には、どのウェブポータルとクリアリングハウスの組み合わせを用いてもユーザーは同じ情報やサービスを利用できる。しかし、現実には既存のウェブポータルとクリアリングハウスの組み合わせ方によって検索結果や利用できるサービスが異なる場合が多数発生し、ユーザーに混乱が生じていた。このような事態を受け、2009年の地球観測に関する政府間会合の総会では、混乱の原因を解明し、2章で述べた3機関がそれぞれ提供する既存のウェブポータルとクリアリングハウスについて評価・選定し、共通基盤としてのウェブポータルとクリアリングハウスを推奨することが決議された[11]。選定に要する期間は、翌年2010年の地球観測に関する政府間会合の閣僚級会合までという短期間であった。以下この論文では、ユーザーの混乱の原因解明、および共通基盤を構築するために採用した評価手法とその結果を紹介する。また、共通基盤の構築と地球観測分野において策定されたデジュール標準との関係を明らかにする。共通基盤を構築することにより、地球観測データの一元管理が容易になり、統合的な検索が可能になるとともに、ユーザーの混乱が解消することが期待される。さらに、今回のデジュール標準の策定の経験が、今後国際標準を策定する際の日本の取り組み方に関するモデルケースを示唆することが期待される。5 要件設定と構成の方法5.1 共通基盤の構成要素の評価・選定のための要件共通基盤の構成要素の評価・選定を行うにあたって以下のような要件を考慮した。1点目は、評価結果の公平性の担保である。ボランタリにウェブポータルやクリアリングハウスを開発・運用してきた機関に対して評価・選定を行うため、公平・公正な評価および結果に関する国際合意を担保することが要求された。2点目は、時間的制約である。評価報告書は地球観測に関する政府間会合閣僚級会合に先立ち、加盟国・加盟機関に提出する必要がある。このため、混乱の原因解明や各要素の評価は実際には1年に満たない期限の中で、検討する必要があった。3点目は、評価に用いる基準の設定である。通常のシステム評価では、例えば検索結果の表示に要する応答時間といった技術的な評価基準が設定される。今回の評価においても技術的な評価基準を設定した。一方で、共通基盤を実際に利用するのは9つの異なる社会便益分野のユーザーである。その用途は多岐におよび、技術的な評価の組み合わせ結果が必ずしもユーザーの使用感を向上させることにはつながらない。インターネット回線速度の限られた途上国のユーザーと、インターネット網が整備された国のユーザーとでは共通基盤の使用感も異なることが想定された。通常のインターネット検索では、テキストの検索結果が得られるだけであるが、共通基盤では衛星画像や地図といったデータのやり取りが必要となる。特に画像の表示に特殊な機能が加えられている場合には、検索結果が表示されるまでの使用感がウェブポータルごとに異なる可能性が考えられる。また、特殊なプラグインのインストールを要求するようなウェブポータルの場合、使用するパソコンの性能によっても動作の使用感が異なることが想定された。そのため、インターネット整備環境等ユーザーの作業環境に制約がある途上国のユーザーを含む9つの社会便益分野のユーザーの使用感についても評価基準を設定する必要があった。さらに、共通基盤は最低限2015年までの政府間会合の活動期間中は安定的に運用される必要がある。ウェブポータルやクリアリングハウス

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