Vol.5 No.3 2012
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−209−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)座談会:価値の創造とシンセシス醸成といった地固めから始めて、全体が動く力を付けた上で、研究者に後ろから「みんなで、ここへ行きましょう」という運営手法で、プル型は、突出したアクティビティーを許容して「俺についてこい」という運営手法を行っているのですが、両方とも、いい点と悪い点があると思います。プッシュ型は地固めをしてからドンといくので全体が動くので力が強いが、動きが遅い。反対に、プル型は迅速性があって、幾つかの尖ったものがうまくいくが、全体が動かない。結局のところ、研究組織の運営は、時期や内容に応じて、両方要るわけで、プッシュ・プル型の運営が必要ということになります。文化の醸成や政策誘導的な評価は、プッシュとプルを繰り返しながらの組織運営が必要ではないかと思います。人材育成に企業、大学と産総研がタッグを組もう小野 人材育成は、大学にとっても産総研にとっても大きなミッションの一つです。ただ、ドクターコースに学生がなかなかいかないという話を聞いたりするのですが。石川 大学と産総研がタッグを組んで、こういうキャリアパスがありますということを明確に出すといいかもしれないですね。東大から産総研にハイウエーが通っていますというと怒られるけれども、農道が通っています、くらいなら大丈夫でしょう(笑)。東京大学の優秀な修士の学生がなぜドクターコースにいかないかというと、修士でも就職先として給料の高い、厚遇するところがあるからです。例えば外資系です。外資系のアクティビティは、極めてアグレッシブで、迅速な評価を行うので、例えば、私の研究成果が新聞に載ると、最初に問い合わせがくるのが海外の企業です。前は韓国人から連絡があったのですが、先日は日本の企業から数年前に移ったという日本人が来ました。若者を含め、今まで日本を支えてきた優秀な中堅技術者、研究者の外資系への流出は問題だと思っています。ここに評価の問題があることもみのがせません。日本の大企業も最初はベンチャーでした。iPhone、Google、フェイスブック等を対岸の富裕層だと思わずに、日本でもあれに匹敵する価値の創出のためにはどうしたらいいか考えなければいけない時期だと思う人が増えてほしい。価値創造のための国の組織設計赤松 国の政策は変化しているのでしょうか。石川 文部科学省では大学発新産業創出拠点プロジェクトというものを2012年度から開始しています。大学の研究成果を社会の価値に結びつけることに、国がリスクマネーを呼び込む場をつくり、積極的にチャレンジするプロジェクトです。施策全体としては成功を目標としていますが、リスクマネーを呼び込むことからもわかるとおり、「正当な失敗」は仕組みの中でリスクテイクする、というものです。文科省の担当者は、「これは文部科学省にとってはチャレンジだ」と言っています。文科省の担当者が、こういう言葉を言うこと自体が画期的で、イノベーティブだと思います。今、産業界とのインターフェースを考えると、現状は産業界のニーズを受け取りすぎていると思うのです。今、産業界がもっているニーズは、今のニーズです。企業が言っているニーズをまとめ上げて、日本のこれからはこのニーズを取り込むことが重要施策だ、とやった瞬間に日本が国としてキャッチアップしていることになるわけで、現状の改良研究に走ってしまうことになります。もちろん改良は必要なのですが、未来を創る施策というときにはリスクを官が冒さないといけない。官がリスクをどうマネジメントできるか、が問われているのです。ここで“官”というのは経済産業省と入れたり、産総研と入れたりしていただきたいのですけど(笑)、官がリスクをどうやってリスクテイクするかという構造を構築するのは、アイデアの問題だと思います。それこそ吉川先生が言うように設計の問題でしょう。その構造を入れないと、これからの研究組織は改良研究だけのものになってしまいます。小野 確かに新しい技術は、実は現在の企業をつぶす技術でもあるのですね。それが自社から出るのか、他社から出るのか、それの違いです。本当は自社から出さなければいけないのだけれども、それは怖いものだからニーズではないと思ってしまう。社会の活力が弱くなると、現状肯定になってしまって変わろうとする力が弱くなってしまう。話が飛んで恐縮ですが、私は標準化の仕事をしているのですが、「日本の今の技術を肯定するような国際標準をつくってくれ」と言われることがままあるのです。でもそれは違うのです。今後世界が必要とする標準をつくって、日本がいち早くそこに変化していくというやり方でなければいけないのだけれども、いまだにそういう現状肯定の論調が多くて、弱ったものだと思っています。石川 標準のときはたぶん「変える」勇気が必要だと思います。だけれども、組織には時として「変えない」勇気も必要です。文化を変えるにはいろいろな勇気が必要ですが、変えない雰囲気の中では変えるための勇気が要りますし、変えようという雰囲気の中では変えないという勇気が必要です。作り上げようとする文化には何が必要で何が不要であるかを、社会の要請を的確に捉えることで選択・展

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