Vol.5 No.3 2012
57/74

−205−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)座談会:価値の創造とシンセシス石川 正俊 氏世界です。組織論や研究の方法論はプロセスなので、それだけでは不十分で、その先にある価値を創造できるかまでを考える必要があります。この際、「価値」を誰が評価するか、「創造」をどう評価するかという二つの問題があります。研究者個人は、主観的な評価は別として、価値を客観的に評価することはできないし、そもそもその立場にはいないわけで、組織体としても同様に価値を評価することは原則として難しいと思います。ここでの私の強い主張は、「価値を評価するのは社会である」ということです。そのことから考えますと、社会が価値を認める成果を生み出すための研究はどうあるべきかという観点が必要です。キャッチアップではない、本当の意味での創造とは何かをもう一度考え直す必要があると思うのです。社会が研究成果の価値を評価するのですから、研究組織体は社会に対して社会が評価できる価値で発信しなければいけません。発信と同時に、社会がどれを価値と認めるかということを受け取る組織体でなければならないし、組織体の中にそれを受け取るメカニズムがなければいけないのですが、これがなかなか難しいわけです。多くの研究者が考えるように、研究成果を学会で発表すれば、それが価値として評価されるかというと、そうではないでしょう。例えばノーベル賞も構成的なものにも出している。私が構成的だと思っているのはゴッドフリー・ハウンズフィールド、アラン・コーマックのX線CT、ジャック・キルビーのIC等ですが、このような受賞はこれから増えてくると思っています。こんなことを言うと叱られるけれども、彼らの研究は、最初に課題が与えられていたわけではなく、最初は「できたらいいな」というただのほら吹きだったわけですが、実際に実証したというすごさもさることながら、研究者としては「成果としてこれができるはずだ。そこに価値があるはずだ」という論を張った、その偉大さに注目すべきです。この点は、強弱の違いはあるにせよ研究者として必ずやらなければいけないことであって、その先が「社会の評価」につながるのですが、論を張ったけれども使われないというのは、社会が価値を評価する限り、つまり、研究者が価値の評価ができない限り、私は「正当な失敗」だと思っています。論理的、技術的に正しいことを主張し、そこに価値が生まれる可能性がある、までが正当であればやるべきなのです。それが実際に価値をもつかというのは、社会が判断するわけですから、論文を書いたり、特許を出すのはその途中段階でしかありません。社会に発信して、それが社会で価値をもてば、さかのぼってノーベル賞なり、何らかの評価を受けるわけで、このメカニズムを研究者が理解しなければいけないと思います。るところです。これまで学術論文の価値はピアレビューによって評価しました。著者の研究に一番近くにいる研究者を査読者に選びます。なぜならば、論文で主張されていることが本当に新しく、論理的に検証されているかを見るためには近くにいる研究者でないと分からないからです。ですが、ピアレビューには限界があります。社会が見えないのですね。自分たちの周りの小さなコミュニティの論理しか見えなくなってしまう。これは学問が社会と乖離する一つの原因ではないかと思います。そこで、我々はメリットレビューと呼んでいるのですけれども、論文で主張されている研究成果を使うことによって利益を受けるとされる人たちが、その利益の大きさを判断基準にして査読するのが本来ではないかと考えました。査読者には近い分野の専門家を排して、関連する大きな分野と別の分野からの二人の査読者を選んで行っています。意外だったのですが、このような査読が結構ちゃんとできることに驚いています。査読者の実名を出して、著者と査読者とのやりとりを論文の後ろに掲載して、読者の理解を助けるという方法をとっていますが、これが結構読者の評判が良いのです。赤松 シンセシオロジーの論文では、なぜそれを問題設定したのか、設定した問題を解くためになぜこの方法論を導入しようと思ったのか、というシナリオを書いてもらっています。全体のストーリーがわかることが大事で、それは研究というものに対しての一つのファクトであり、それらをたくさん集めようというのがこのジャーナルの目的でもあります。それによってどういうふうに研究を進めたらいいかということが見えてくるのではないか。細分化して、分析的に要素還元論的にやっていくと全体が見えなくなってしまうので、研究者がタコツボに入らないためにはどうしたらいいかという問題意識をもっています。価値創造のための真の独創性石川 今の科学で足らないことは、「価値創造」という

元のページ 

page 57

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です