Vol.5 No.3 2012
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研究論文:糖鎖研究のための基盤ツール開発およびその応用と実用化(成松)−202−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)議論2 基盤ツールの国内外での活用事例質問(小野 晃)この研究で開発された基盤ツールが国内外で広く利用されることで、糖鎖研究がさらに加速されることを期待します。現状国内外の他の研究機関や企業でこの研究の成果がどのように活用されているか、著者が知る限りで結構ですので、事例を紹介していただけないでしょうか。また国内外の他機関との共同研究のような形をとっているのでしょうか。差し支えない範囲でお教え願います。回答(成松 久)産総研で開発した基盤ツールの外部への波及に関して、筆者の知る範囲で一部を以下のようにリストとしてまとめました。糖鎖遺伝子・約30遺伝子の特許出願を行い、そのうち13遺伝子についてはグライコジーン社に実施許諾しました。・特許に関連しない糖鎖遺伝子を国内外20研究機関に配布するとともに、より広範囲な研究機関に配布するため(独)製品評価技術基盤機構(NITE)に寄託しています。・我々が開発した糖鎖遺伝子のデータベースであるGGDBへの年間アクセス数は172,570件(平成23年度)あります。・糖鎖遺伝子のノックアウトマウス13種を作製し、疾患モデルマウスとしての応用を目指し国内5機関、海外3機関との共同研究を実施しています。・ 糖転移酵素を活用した糖鎖合成を行い、糖鎖アレイ等への応用を目指した共同研究を国内外の研究機関と実施しています。・ 酵母で発現した安価な糖転移酵素を用いて、某企業と糖タンパク質合成の共同研究を行っています。・上記の共同研究の成果として多数の論文発表を行っています。レクチンマイクロアレイ・GPバイオサイエンス社が実用化しました。・すでに数十件の関連論文が外部機関から出されていますが、下記に極めてインパクトのある3件を記載しました。例えば、京都大学山中伸弥教授がiPS細胞の評価に使っている例としてYC. Wang et al.: Specific lectin biomarkers for isolation of human pluripotent stem cells identified through array-based glycomic analysis, Cell Res., 21(11), 155-1563 (2011).それ以外には、EL. Bird-Lieberman et al.: Molecular imaging using fluorescent lectins permits rapid endoscopic identification of dysplasia in Berrett’s esophagus, Nature Medicine, 18(2), 315-321 (2012).SA. Fry et al.: Lectin microarray profiling of metastatic breast cancers, Glycobiology, 21(8), 1060-1070 (2011).・レクチンに関するデータベースであるLfDBへの年間アクセス数は23,605件(平成23年度)ありました。・産総研から、レクチンアレイを用いた糖鎖バイオマーカーに関する特許を7件出願済みです。質量分析による糖鎖構造解析・すでに島津製作所/三井情報から解析システムを販売しています。カタール、北京、上海、アメリカに各1台、国内で3台(国立がんセンター、岐阜大学、JADAに各1台)販売実績があります。・糖鎖構造解析に関連する二つのDBの年間アクセス数は、GMDBが18,256件、GPDBが36,729件(平成23年度)ありました。・糖鎖構造解析の共同研究の成果は多数ありますが、下記に主な発表論文を記します。T. Fukuda et al.: 1,6-fucosyltransferase-deficient mice exhibit multiple behavioral abnormalities associated with a schizophrenia-like phenotype: importance of the balance between the dopamine and serotonin systems, J. Biol. Chem., 286(21), 18434-18443 (2011).執筆者略歴成松 久(なりまつ ひさし)1974年慶応義塾大学医学部卒業、同年医師免許取得。1979年慶應義塾大学医学研究科大学院・微生物学専攻・修了(医学博士)。1991年慶應義塾大学医学部助教授、同年4月創価大学・生命科学研究所・教授、2001年産業技術総合研究所分子細胞工学研究部門総括研究員を経て2006年産業技術総合研究所糖鎖医工学研究センター研究センター長、現在に至る。筑波大学・医学医療系・連携大学院教授、慶應義塾大学・医学部・客員教授、中国・上海交通大学・顧問教授を兼務。専門分野は、糖鎖生物学、生化学、免疫学、微生物学、腫瘍生物学。2007年に日経BP技術賞、2010年に化学バイオつくば賞、2011年につくば賞を受賞。日本糖質学会評議員、日本糖鎖科学コンソーシアム常任理事、国際プロテオーム学会(HUPO) 理事、日本プロテオーム学会(JHUPO)理事、日本生化学会評議員、日本分子腫瘍マーカー研究会評議員、日本学術会議連携会員、日本癌学会所属。査読者との議論議論1 全般コメント(小野 晃:産業技術総合研究所)糖鎖という新しい領域を先駆的に開拓してきた研究に関して、その全体戦略(シナリオ)が明確に記述されています。また必要な要素技術を適切に選択し、それぞれの開発についても大きな成果をあげています。さらに要素技術を統合し、癌診断技術を構成していったプロセスも優れたものです。糖鎖という新しい領域を今後開拓するために、多くの研究者・技術者が容易に使えるような基盤ツールの開発を第1の研究目標に掲げたことは素晴らしいことと思います。とかく実がなっている木の下は足の踏み場もないくらいに混み合い、流行りの領域で研究のエンドユーザーにはなりたがるのに、種をまいたり、苗木を育てたりする基盤的な研究にはあまり興味を示さない研究者が多い中で、この研究は先駆的な研究のあるべき姿を示したものとして称賛されます。また図2にあるような機能、合成、構造からなる3本柱のシナリオを最初にしっかりとたてたことが、その後の研究の着実な進展を支えたように思います。明確なシナリオに基づく大規模なプロジェクトを遂行するためには、6章「おわりに」で著者が述べているように、産総研の研究センターのように大規模な研究組織が一丸となって10年という長期間取り組むことが必要だったと思います。コメント(湯元 昇:産業技術総合研究所)分野融合的に糖鎖構造解析のための要素技術を開発し、疾患バイオマーカーの実用化に向けてシナリオをもって要素技術を統合したことは優れた第2種基礎研究の事例となっていると思います。S. Nagai, Y. Takahama, M. Mizokami, J. Hirabayashi and H. Narimatsu: LecT-Hepa: a triplex lectin-antibody sandwich immunoassay for estimating the progression dynamics of liver fibrosis assisted by a bedside clinical chemistry analyzer and an automated pretreatment machine, Clin. Chim. Acta, 412(19-20), 1767-1772 (2011).A. Matsuda, A. Kuno, T. Kawamoto, H. Matsuzaki, T. Irimura, Y. Ikehara, Y. Zen, Y. Nakanuma, M. Yamamoto, N. Ohkohchi, J. Shoda, J. Hirabayashi and H. Narimatsu: Wisteria floribunda agglutinin-positive mucin 1 is a sensitive biliary marker for human cholangiocarcinoma, Hepatology, 52(1), 174-182 (2010).[43]

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