Vol.5 No.3 2012
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研究論文:糖鎖研究のための基盤ツール開発およびその応用と実用化(成松)−191−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)鎖の簡単な構造のN型糖鎖(N-グリカン)をもつが、その構造のバラエテイーは36種類にもなる。しかし糖鎖構造が均一な糖タンパク質を精製するのは極めて困難であり、かつ糖鎖構造の均一な糖タンパク質を合成することも不可能に近い。したがって現時点では、糖鎖構造の微細な違いによる機能の違いは、ほとんど解析されていない。糖タンパク質に結合している糖鎖には、大別して、N-グリカンとO型糖鎖(O-グリカン)がある。N-グリカンのタンパク質への結合位置は、アスパラギン-X-スレオニン/セリン(Asn-X-Thr/Ser)であり、種を通して比較的保存されている。一方、O-グリカンはスレオニン(Thr)もしくはセリン(Ser)なら、どこにでも結合する可能性がある。O-グリカンの合成を開始するppGalNac-Tと命名された糖転移酵素は、ヒトでは約20種類が存在する。細胞の分化や癌化に伴って、20種類の各酵素の発現パターンが大きく変化する。このことはとりもなおさず、O-グリカンの結合位置は、細胞の分化、癌化により異なっていることを意味する。残念ながら、現時点ではO-グリカンの結合位置を正確に同定する技術はまだ開発されていない。糖鎖分子として存在する限り、必ず何らかの重要な機能があるはずと考えるのは科学者として当然の発想であろう。しかし糖鎖が関与したタンパク質の機能解析となると、糖鎖機能解析のための基盤技術が存在しないため、ほとんどの研究者が避けて通る。11年前にヒト全ゲノム配列の解読が終了し、それを鋳型としてプロテオーム研究(タンパク質の網羅的解析)が隆盛を極めつつあった。ゲノムからプロテオームという流れの後にくるのは、糖タンパク質(糖鎖の結合した最終的な機能分子)の網羅的機能解析(グライコプロテオーム)であることを確信していた。そのためにはまず糖鎖研究に必要な基盤技術ツールを開発しなければならない。その後に、グライコプロテオームの概念をもとに、糖鎖機能解析が可能となる。その結果が、バイオ医療分野すなわち診断や治療への応用とつながっていくと考えた。2 糖鎖とは何か「糖鎖とは、細胞あるいはタンパク質が羽織る衣服のようなものである。」と例えることができる(図1)。糖鎖には次のような特徴があり、応用が期待できる。①糖鎖は、細胞の分化・成熟・活性化とともに配列構造が大きく変化していく。正常細胞から癌細胞になれば、脱分化方向に細胞が進むので、糖鎖構造が大きく変化する。癌マーカーとして最適と予想される。また再生医療にも応用できるであろう。細胞が分化する方向にしたがって糖鎖構造が規則正しく変化する。細胞の分化系列を判定するのに有用であろう。生体内で最も早く成熟・分化するのは生殖細胞である。精子や卵子の糖鎖構造は時々刻々劇的に変化する。成熟にとって糖鎖が重要な機能を担っているに違いない。 また、細胞の活性化や休止化に伴って糖鎖構造はすばやく変化する。免疫系の細胞では、活性化、休止化を繰り返す度に糖鎖構造が変化している。②産生する組織により糖鎖構造が異なる。一例として、肝細胞も脳の脈絡膜もトランスフェリンというタンパク質を産生する。タンパク質部分は全く同じであるが、糖鎖構造は大きく異なる。糖鎖構造を検出すれば、どこの組織細胞由来かが分かるのである。また、癌細胞では、ある種のシアル酸転移酵素や硫酸転移酵素の発現が劇的に上昇 老化バイオマーカーとしての資質を有する(疾患マーカー、分化マーカー、機能マーカー)個体差病気の細胞(疾患状態)老化細胞成熟細胞(分化細胞)未成熟細胞(幹細胞、未分化)細胞の状態(発生分化や疾患状態)を反映している(細胞の状況に合わせて) 様々な機能を有する種特異性臓器特異性発生機能応答細胞の発生・分化糖鎖は・・・ 細胞特異的分化刺激図1 糖鎖は細胞(タンパク質)の洋服のようなもの

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