Vol.5 No.3 2012
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研究論文:観光地の集客施策に対する効果測定の試み(山本)−188−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)意見を支持する動きが広がることがプロジェクト推進には必須である。そのために地元説明会は頻繁に繰り返したが、ここでは5.2節の相互作用のもつ意味を指摘したい。前述したようにユーザー側からアイデアが出され、それを具体化して見せるという作業を短期間で繰り返した。これは「自分たちの出したアイデアが反映される」との認識をユーザー側がもつことに貢献した。アイデアを出した人はもちろんのこと、それ以外の人々にも自らが主体的に作っているのだという認識が広がった。結果として多人数のコミットメント(プロジェクトへの関与)を引き出した。もう一つ、コミットメントを引き出すことに貢献したと考えられるポイントがある。それは「システムに名前を付けてもらう」ことである。独自の名前(城崎温泉湯めぐりパス「ゆめぱ」)は、命名直後から急速に街中で広まった。科学的因果関係は現時点では明らかではないが、独自名称を命名することは自らが主体的に作っているのだという認識につながると思われる。運営組織の設立プロジェクトを長期に運営する体制は重大な論点の一つであった。合意しなければならない事項は街全体に及んでいたが、業種別の団体しか意見を取りまとめる組織が存在しなかったし、街づくり全体のためにOSF-POSを活用する議論の場がなかった。外湯券については財産区議会、つけ払いについては商工会、と所掌範囲が異なっており、OSF-POSの運用主体も分離したままだった。そこで、城崎温泉ではすべての業種別団体の代表者から構成される「街全体の意思決定機関」を新たに設立した。新組織は街全体のための事業を議論する場として機能するとともに、OSF-POSを継続運用する責任主体として機能する。将来の運営を担保する上で責任主体の明確化は必須である。6 おわりに観光地に品質改善の最適設計ループを導入するため、観光客の回遊行動データを中長期にわたって観測する必要がある。この論文では、我々の提案するインセンティブ付の調査システムが有効であることを示すとともに、本プロジェクトを地元関係者と技術者との共同作業という観点から考察した。調査システムの実用導入にとって地元関係者の最大の懸案は「地元の人々だけでデータ活用は可能か」にあったが、得られたデータを頻繁にみてもらう環境を提供することで宿や店舗の経営者自身にも有益なアイデアが出せることを本プロジェクトは実証した。より効果の高い集客施策とするために、仮説をもって来年度の企画を立案することが必要であるが、実際の企画決定は交付金の有無や人間関係等も影響を与えるので、今後どのように運営されるかについては推移を見守りたい。謝辞この研究は経済産業省委託事業平成22年度「ITとサービスの融合による新市場創出促進事業(サービス工学研究開発事業)」の支援を受けて行われた。注1)本来レジスターとPOSとは異なる(POSはデータ分析を目的としている[8])が、レジとPOSをほぼ同義に使うことは多い。注2)この論文ではPOSと単に表記した場合は一般的なPOS(Point of Sales)を意味する。この論文で提案するシステム名(OSF-POS)に使っているPOSはPoint of Serviceを意味する。注3)これは大変好評なサービスではあったが、深夜や翌朝に個々の宿に代金の回収に回ることは飲食店等にとっては負担であるために、すべての飲食店がつけ払いに応じているわけではなかったし、飲食店以外ではごく一部の土産物店で実施されているにとどまっていた。注4)旅館内にある風呂に対して、外にある共同温泉浴場を外湯と呼ぶ。城崎温泉には7つの外湯がある[10]。注5)宿は、定期的に温泉課に券を受け取りに出向き、すべての券の裏面に宿の屋号のスタンプを押す手間がかかった。一人で10枚も20枚も持ち出す宿泊客もいるので、外湯券の消費が予想以上に早まって足りなくなることもある。ゆかたの袖に大量の外湯券が入っていることに気付かず洗濯してしまうことも宿の不利益である。温泉課は、入浴者数を調べるためには回収した紙の券を手作業で数えなければならず集計は常に3か月前のものであったし、一人がいくつの外湯を利用したのか、何時に利用したのか等、詳細な行動は把握できなかった。注6)主に人的資源の問題から2012年1月現在で、これらの提案はまだ実装されるに至っていない。注7)文献[6][7]では「権利確認型」と「権利更新型」の他に、IDを持たない者に対しても提供するサービス(「スタンプ型」)について述べている。たとえば、観光案内(来訪者のリクエスト操作に応じて音声や映像を表示するサービス)等である。しかしこの型はデータ蓄積に貢献しないので、この論文で示す二つの型に分けるべきである。内藤耕(編), サービス工学入門, 東京大学出版 (2008).J. W. Houghton: Online delivery of tourism services: developments, issues, and challenges, Information and Communication Technologies in Support of the Tourism Industry, Idea Group Pub, 1-25 (2007).塙 泉: 観光の本質と旅行者像に関する考察, 日本国際観光学会論文集, 15, 29-34 (2008).野村幸子, 岸本達也: GPS・GISを用いた鎌倉市における観光客の歩行行動調査とアクティビティの分析, 日本建築学会総合論文誌, 4, 72-77 (2006).山本吉伸, 中村嘉志, 北島宗雄:サービスによるサービス調査手法(SSS)の提案, 第26回ファジィシステムシンポジウム論文集, 800-805 (2010).山本吉伸, 北島宗雄: オープンサービスフィールド型POSの提案−観光地のサービス向上への適用−, 地域活性学会論文誌, 89-97 (2011).山本吉伸: オープンサービスフィールドにおけるPOSシステム, 観光情報学会第2回研究発表会論文集, 19-24 (2010).小川進: イノベーションの発生論理, 千倉書房 (2000).P.F. Drucker: Innovation and Entrepreneurship: Practice and Principles, Harper & Row, New York (小林宏治監訳, [1][2][3][4][5][6][7][8][9]参考文献

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