Vol.5 No.3 2012
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研究論文:観光地の集客施策に対する効果測定の試み(山本)−186−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)出されていなかった。そこで我々は外湯券発券時に「宿泊客の年齢層」等の付加情報を宿で入力してもらうことを期待した。データ分析のことを考えれば、宿でキーとなるデータを入れてもらうことはとても重要であったし、同様の入力をしているコンビニエンスストアのPOSはアルバイトの学生から高齢者までが使っているのだから、城崎温泉の宿でも十分に可能だと考えていた。しかし、最終的には付加情報を入力するためのインタフェースは一切採用されなかった。例えば外湯券の発券だけならコマンド一覧の「発券バーコード」を読み込むだけにした。宿泊客がおサイフケータイ等非接触ICカードをもっている場合は、宿のOSF-POSにタッチするだけで直ちにそれが外湯券化するようにした(2連泊以上の人の場合は連泊日数をバーコードで読み込み、子供の場合は「子供券バーコード」を読み込んでから発券する必要がある)。調査機能を重視していた我々としてはできるだけデータを取得するため、少しずつ操作を簡略化しつつも付加情報をできるだけ残した試作インタフェースを見てもらっていたが、そのたびに地元関係者は操作の簡略化ができないかを質問した。宿の経営者には高齢者も多く、新しいやり方(宿で発券する方法)に対する不安が大きかったのである。最初はとてもあいまいな機能デザインが提示されていたが、技術デザインを当てはめる過程で徐々に機能デザインとして強い要請が絞り込まれたと考えられる。外湯券の機能デザインOSF-POSにはおサイフケータイや非接触ICカードをIDとして利用できる機能がある。しかしこれらのカードの普及率は100 %ではないから、レシートにバーコードを印刷する方式を併用せざるを得ない。ここで、すべての外湯券をレシート発券だけにしても機能的には十分に足りることが議論された。しかし、次の二つの理由から非接触ICカードとレシート発券を併用することになった。一つ目の理由は「観光客がもっているケータイがそのまま外湯券になる」という宣伝文句が「魅力的な新技術」として受け止められたことである。ケータイは、最も身近なIT技術の一つである。これは城崎の人々にとっても同様である。そのケータイを活用するのは(少なくとも温泉地にとって)まだ他の地域では実施していない最先端の取り組みとしてわかりやすい。しかも、顧客に喜ばれる可能性が高いと期待された。浴衣姿の外湯巡りではなるべくモノを持ち歩きたくないと考える観光客であっても、自分のケータイだけは持ち歩く。これは地元関係者にとって周知の事実であったから、ケータイが外湯券にできるのであれば宿泊客へのアピールができる。もう一つの理由は不正利用の防止に役立つと考えられたことである。当時、城崎温泉では「一日券(当日に限り、どの外湯でも何度でも入ることができる券)」を企画していたが、購入された一日券がグループ内で貸し借りされて使われることを危惧して発券に踏み切れないでいた。顧客のケータイを外湯券として利用する方法ならば、同じ券を複数人で使いまわすという利用方法は少なくなると期待できる(これによって貸し借りを防ぐことができると期待された)。そのため、コスト的にはバーコードだけに統一するほうがやや有利であったにもかかわらず、FeliCaを利用する技術が積極的に機能デザインに取り込まれた。ユーザー側が積極的に技術を選択したという意味において、テクノロジー・プルの要素が一部あったと言えるだろう。つけ払い機能付き外湯券つけ払いサービスは、宿にとって負荷の純増である。宿泊客に対してつけ払いサービスの説明をしなければならないし、チェックアウト時には清算を行う必要がある。現時点では経済的には宿にメリットはなく、純粋に街全体のサービスとして取り組んでいる。それゆえ、つけ払い機能付きの外湯券を発券するかどうかは宿の任意である。そこで少しでも宿の手間を少なくするよう、外湯券を発券する前に(宿泊者の)部屋番号を入力するだけでつけ払い機能付きになるようにした。チェックアウト時に料金を請求する際、部屋番号だけはどうしても必要で、これ以上操作を減らすことは困難であり、研究者側はこのインタフェースが最終形であろうと考えていた。OSF-POS導入後、多くの宿では、宿泊客が到着する前に外湯券を印刷しておく方式を採用していた(チェックイン後はとても忙しくなってしまうので、できるだけ準備は先にしておきたい)。ところが、外湯券を発券する前に部屋番号を入れておかねばならないとすると、つけ払いを希望する客のために発券済みの外湯券を廃棄して、つけ払い機能付き外湯券を発券しなおす必要があった。これに気付いた研究者側が、「部屋番号を入力してから発券済み外湯券を読み込ませれば、その外湯券につけ払い機能を追加できる」という機能を追加した。この機能はとても好評を得て、後者の使い方のほうが主流になっている。発券済みの外湯券に後から機能を付加できるということは地元経営者にとっては想像の難しいところであったと思われる。また、つけ払い機能付き外湯券を発券する宿は街全体の取り組みに積極的に参加している宿なので、多少の不便があっても改善要望が出されなかったと想像する。この事例は、当然のことではあるが、技術側からニーズをうまく抽出することが必要なこともあることを示している。パスコード

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