Vol.5 No.3 2012
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研究論文:観光地の集客施策に対する効果測定の試み(山本)−185−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)5 考察1年間の実験運用を経て、城崎温泉は本プロジェクトで構築したシステムの継続的運用を決定した。2012年1月現在、城崎温泉のすべての宿(87軒)、すべての外湯(7か所)、35か所の店舗・観光拠点に端末が設置され、運用されている。ここまで本プロジェクトを主に技術側から説明したが、プロジェクトの推進にユーザー側が果たした役割は大きいと思われる。そこで以下では、ユーザー側と技術側の相互作用と役割分担について検討する。5.1 イノベーションに関する役割分担:知識の粘着性複数の主体が共同プロジェクトを実施するとき、それぞれの有する知識によってプロジェクト内での役割が決まる。この点、小川の「知識の粘着性」に関する議論は興味深い[8]。知識の粘着性とは、ある特定の現場で生じた知識(ノウハウや問題点の認識)の流動性(他の地域への伝達の容易さ)を表現した概念である。その知識が他の場所でも容易に活用できるものであれば粘着性は低い。一方、城崎温泉で生じていた外湯券の問題点は、他の地域で活用できる形で切り出すことは容易とは言えない。したがって粘着性が高い知識である。対照的に、情報技術をどのように利用するかという知識はPCやインターネット環境が普及している現在では、相対的に粘着性は低い。このような場合、粘着性の高い知識の現場に近いところでイノベーションが起こると説明される。城崎温泉がシステム完成の地であった本プロジェクトの結果は、小川の議論が妥当である。小川[8]は、この「粘着性」の概念に加えてニーズ・プッシュ(ユーザーが機能デザインを行うこと)とテクノロジー・プル(ユーザーが技術デザインを行うこと)という概念を用いて、ユーザーにとって技術情報の粘着性が低ければ低いほど製品イノベーションにおいてテクノロジー・プルの傾向が高まると指摘する。このプロジェクトでの技術デザインは、おおむね研究者側にゆだねられた(テクノロジー・プルとはならなかった)。提案された機能デザインを実装する方法はさまざまあり得たし、類例を探すことで技術に精通していない者でも実装方法を指定することは不可能とまでは言えなかった。しかし、どの技術を使えば費用を低減できるかという課題は技術情報の中でも個々の技術の難易度を理解している必要があり、技術者の技量が反映する知識でもあるから、粘着性の高いものと考えられる。5.2 ユーザー側と技術側間の接点の調整技術デザインの枠組みに機能デザインを当てはめる作業、すなわちユーザー側によるニーズ・プッシュおよびテクノロジー・プルと、技術側によるテクノロジー開発の接点の部分は技術デザインと機能デザインの両方に少なからず影響を与えたと思われる。前述したとおり、インタフェース(現場での使い勝手)については最終形態が実装されるまで、幾度も研究者側と地元関係者の間で試作と試用が繰り返された。もし、完全にユーザーが機能デザインを記述しきることができるのであれば(どのように使うのかすべて事前に仕様書の形で書き下すことができるのであれば)、その状態はニーズ・プッシュにとどまらずテクノロジー・プルに相当するであろう。技術デザインに関する知識をもたないユーザーに対して機能デザインを促す場合には、こういうことをやりたい、という提案を受けて実装し、それを試行して問題点があるかどうかを検証し、再び改善策を検討する、という相互作用を作らねばならない。以下に、ユーザー側と技術側の相互作用が機能デザインや技術デザインの決定に影響を与えた具体例を挙げる。宿での操作インタフェース地元関係者から外湯券を電子化するという要望が寄せられた初期の段階では、インタフェースに対する要望はまだ図5 7:00〜23:00の外湯利用者数(2010年12月累計)図6 2011年8月の日別宿泊客数(上)と日別売上高(下)02,0004,0006,0008,00010,00012,00023:0022:0021:0020:0019:0018:0017:0016:0015:0014:0013:0012:0011:0010:009:008:007:003130292827262524232221201918171615141312111098765432131302928272625242322212019181716151413121110987654321

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