Vol.5 No.3 2012
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研究論文:観光地の集客施策に対する効果測定の試み(山本)−182−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)大きな不満となった。逆に、何枚でも自由に持ち出すことができるため、入手した外湯券をネット上で売る者も出ていた。そこで宿泊者以外の者が不正に入手しても入浴できないようにするため、宿泊者であることを別の手段(例えばゆかた姿)で確認する必要があり、本来は朝10時まで入浴可能であるべきところ(ゆかたを着ることができないために)「チェックアウト後は利用できない」という宿泊者にとっては不利益なルールを導入せざるを得なかったのである。これらの要望を統合して、外湯券の電子化が企画された。その他のアプリケーション提案外湯券の実証実験が始まり、一部の旅館でテスト的に発券が始まってからも、アプリケーションの要望を聞く機会は何度も開催された。そのなかで地元経営者から「観光案内ができないか」と提案が寄せられた。城崎温泉には「城崎案内人」という観光サービスがある。これは地元の「語り部」がいくつかの要所で観光案内を行うものである。しかし語り部を事前予約する必要があり、観光客にとって必ずしも手軽に楽しめるものとはいえなかった。また、近年増加しつつある海外からの宿泊客には対応することができなかった。そこで、外湯券をOSF-POSにかざすことで、その場所の観光案内が再生されるサービスが企画された。そのほか「城崎メンバーズカードのようなものを実現したい」「レンタサイクルの貸し出しシステムに使いたい」といった提案が寄せられた注6)。3.2 費用低減のための技術デザイン一方、オープンサービスフィールドでは費用を低減させる技術デザインが必要となる。我々は、将来オープンサービスフィールドから提示されるさまざまな機能デザインを実装する上で費用低減に資する枠組みをOSF-POSに準備した。IDの配布費用の低減サービスの高度化・高品位化のために、顧客へのID配布は必須である。顧客がIDをもつことにより、詳細な個別行動の収集・分析が可能になるし、その日使われたIDの総数をみれば、その日の顧客総数がわかる。ID別の行動履歴を用いれば「この顧客がリピーターかどうか」がわかるので、特別なインセンティブを提示することも可能になる。リピーターかどうかの判断だけであれば紙のスタンプ帳を配布すればわかるのだからIDは不要と考えることもできようが、IDに対してポイントを与えることでポイントサービスを高度化できる。例えばポイント分布状況(現在、何ポイントもっている人がどのくらいいるのか)がわかり、ポイントの市場価値を正確に把握できるし(たくさんポイントをもっている人がたくさんいるなら、ポイント一つあたりのインセンティブは低くなる)、IDを付けることでポイントの流動性を制御することができる。つまり、ポイントの譲渡を制限することで厳密に取り扱うこともできるし、他の人にプレゼントする仕組みを提供して新規顧客の開拓に活かすこともできるようになる。今日どの店に訪れたのかがわかるので「あちらの店舗を訪れた人にだけxxを謹呈する」等の相互送客の仕組みを導入することもできる。IDの配布は顧客にとっても価値がある。リピーターに対するインセンティブを受けることができるし、たくさんのクーポン券や入場券等を束にして持ち歩く必要がなくなる(すべての権利をメンバーズカードに紐づけてしまえば、メンバーのIDを提示するだけで権利を行使できる)。万が一、券をなくしてしまってもIDで管理されていれば再発行も比較的容易となる。また、地域内で「特定個人に対して提供するサービス」を受ける際に、個々のサービス提供者に対して実名や住所を提示する必要がなくなり、匿名のままでサービスを受けることができるようになる。例えば宿でランダムに割り振られたID番号とクレジットカードを紐づけしておき、このIDですべての買い物ができれば、地域内の個別の店舗でクレジットカードの番号や実名を開示する必要がなくなる。仮に観光地内に信頼できない店舗があったとしても、匿名を保持することができプライバシー保護に資する。このように、IDを配布することは、強力なサービスインフラをもつことを意味する。それゆえ、ショッピングモールや百貨店等ではメンバーズカードを配布し、顧客を個別に把握するための投資を行う。しかし観光地を訪れるほとんどの観光客は年に一度程度しかそこを訪れない。そのようなときに一人ひとりにメンバーズカードを発行していては費用が高くつき、現実的ではない。そこでOSF-POSには、顧客がすでに所持している番号を顧客IDとして活用する機能がある。例えばFeliCaの製造番号をIDとして使うことができる。FeliCaはおサイフケータイや交通系ICカードで利用されている非接触ICカードデバイスである。日本では、おサイフケータイ機能を搭載している携帯電話は出荷台数中7割に上る[11]。2010年8月の調査によれば首都圏では電子マネーの保有率が98.6 %に達し、近畿、札幌、福岡、東海等の地域においても60 %を超えている[12]。FeliCaの製造番号をIDとして利用することはIDを配布する費用を下げることに大きく寄与する。一方、おサイフケータイ等をもっていない顧客のためにOSF-POSには発券機能がある。当該観光地で最初に利用するサービス拠点で、そのサービスの利用券面上に顧客IDを印字して配布するのである。このとき、当該IDが電子的に読み取れること(バーコード等)が重要である。顧客がもっているケータイを利用するより費用は必要となるものの、レシート用紙等消耗品の費用はごくわずかである。

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