Vol.5 No.3 2012
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研究論文:観光地の集客施策に対する効果測定の試み(山本)−181−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)である。一般的に、どのサービス現場でも「お客様が喜ぶこと」は経営者にとってインセンティブとなるが、「何がお客様に喜ばれるか」は個々のサービス現場によって異なる。小川[8]は、イノベーションを起こすためには「機能デザイン(ユーザーが抱える問題を発見し、それを機能要件に翻訳するという問題解決)」と「技術デザイン(その機能を実現する生産技術を含めた要素技術の組み合わせを創出するという問題解決)」の二つの問題解決が必要であると指摘している。「お客様に喜んでいただくサービスはなにか」は、機能デザインの問題であり、東京で活動するIT研究者が考えるより地元で営業する経営者が取り組むことが望ましい情報であることは明らかである。とはいえ、一方的に地元がやりたいことを実現する、というだけではプロジェクトの目的は達成できない。それゆえ我々は「お客様が喜ぶ仕組みを提供するために導入する」ことと「調査技術として機能する」ことを両立させる手法を考案する必要があった。そこで我々はPOSシステム(販売時点情報管理システム)に着目した。小売店では「消費者が『いつ』『どこで』『なにを』購入したのかを知る」ためにPOSが使われているが、これを使う販売員にとっては調査システムというより日常の販売業務を潤滑に処理するための道具として認識されている注1)。この先例にならい、本プロジェクトでは、「観光地内を回遊する観光客が、『いつ』『どこで』『どんなサービスを』受けたかを知る」観測技術をPOS(Point of Service)と位置付け、観光地で必要とされる各種サービスを構築できるクラウドサービスと、そのサービスにアクセスする小型端末「オープンサービスフィールド型POS(Open Service Field Point of Service。以下、OSF-POSと呼ぶ)注2)」を開発した(図1)。そして、そのOSF-POSを使うことを前提として、どのようなサービスを提供すれば「お客様に喜んでいただけるか」を宿や物販店舗の経営者に尋ねることとした。3.1 機能デザインの発掘我々はOSF-POSの物理的な機能(プリンターやディスプレイや音声再生機能、非接触ICカードの読み取り機能等)やソフトウエアで実現可能な機能の概要(メンバーカードが作れる等)を紹介しつつ、どのようなサービスを観光客に提供したいかを聞き取り調査した。町営クレジットカード一番に要望として挙げられたのは「町営のクレジットカード(つけ払い)ができないか」というものであった。城崎温泉では古くから「つけ払い」の文化が根付いており、宿泊客がゆかたのまま飲食店等を訪れても、支払いは宿へのつけが効くのである(チェックアウトのときに料金をまとめて支払う)注3)。提案者である商工会長は、このつけ払いサービスを、少額のソフトクリームやジュースといったものに拡張して、より多くの人につけ払いサービスを提供したいと考えていた。外湯券つけ払いの要望とおよそ同時に、複数の地元関係者が「外湯券の電子化」を要望として挙げた。城崎温泉では「外湯めぐり注4)」がもっとも中心となる観光資源であり、およそすべての宿泊客が宿で外湯券をもらってから街中を歩く(図2)。旧来の外湯券は紙で印刷されており、宿泊客は外湯に行くたびに1枚ずつ外湯券を渡して入浴する。だが紙方式にはいくつかの問題があった。券を渡す宿や、外湯を管理する行政部署である豊岡市温泉課にも不利益があったが注5)、なにより宿泊者にとって不利益があった。宿泊者であればフロントに山積みされた外湯券を何枚でも持ち出すことができる。ところが、「どうせそんなにたくさん入浴しないだろう」と考えて外出する宿泊客は意外と多い。券が足りず戻ってくることは(自己責任であるものの)図1 OSF-POS図2 城崎温泉と外湯の位置1.さとの湯2.地蔵湯200 m12345673.柳湯4.一の湯5.御所の湯6.まんだら湯7.鴻の湯

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