Vol.5 No.3 2012
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研究論文:観光地の集客施策に対する効果測定の試み(山本)−180−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)アプローチを述べる。そこでは、我々の開発した「オープンサービスフィールド型POS(Point of Service)」を説明する[5]-[7]。その後、実用化に向けた試みにおいて重要な役割を果たした要因である、地元関係者と技術者との相互作用に関して考察する。2 観光地歩行者流動調査2.1 オープンサービスフィールドとはなにか我々の対象とした観光地は、以下のような特徴をもつ地域として一般化できる。1.一定の地域内に、小規模サービス提供者が多数存在し、競争的に共存している。各サービス提供者は対等な関係であって、主従関係はない。2.その地域には、特定の出入り口がない。顧客はどこから来てもどこから帰ってもよい。その流入・流出を個々のサービス提供者は把握していない。このような特徴をもつ地域を「オープンサービスフィールド(Open Service Field)」と呼ぶ。オープンサービスフィールドの例としては、商店街やショッピングモール、地方観光地がある。複数のサービスが集まった中を顧客が回遊する地域であっても、同一の運営主体のもとで運営されている場合にはオープンサービスフィールドには該当しない。著名なテーマパークの多くはオープンサービスフィールドに該当しない。2.2 オープンサービスフィールドでの調査事業イベントや集客施策の効果を調べる調査が観光地であまり積極的に行われていないのはなぜか。もし単独の企業が調査事業を実施するのであれば、意思決定権者の判断がすべてである。その決定に従わない支店、という事態は一般的には想定する必要がない。これに対してオープンサービスフィールドでは多数のサービス事業者が独立してビジネスを行っているから、上意下達というわけにはいかない。それゆえ、街づくりに責任ある人々が調査の重要性を感じたとしても、個々の地元事業者が賛同しなければ実現できない。ではなぜ調査事業に対して積極的に賛同する地元事業者が多数派になりにくいのか。この点、次のような構造的要因を指摘できる。(a)関心の低さと費用の適切性判断の困難性街の集客数を向上させる事業ということであれば賛同を得やすい。だが調査事業は、これを実施したからといって集客数が直ちに伸びるものではない。集客数が伸びるかどうかは個々の集客施策にかかっており、調査はその施策の結果を計測するだけである。効果的な集客施策を増やし、効果の低かった集客施策を廃することで翌年度はさらに効率のよい投資が実施される。これが本プロジェクトの意義である。その意義を地元関係者に説明することに時間を割いたが、地元経営者にとっては直接的に自店の売り上げに連動する話題とはいえないことから総じて関心は低い。仮に売り上げの向上が見込めるとしても、その増額分がいくらになるかは容易に見積もれず、調査費用が適切かどうかの判断は難しい。(b)公平な受益者負担の難しさ街全体の利益になると判断できる事業であり、総額も見合うものだと判断できたとしても、その経費の平等な負担を合意することは容易ではない。オープンサービスフィールド内の競争関係の帰結として経済的格差が生じており、平等の意味すら共通ではないのである。小さい規模の店舗としては経済的余力のある者が応分の負担をすべきだと考える一方、大きな規模の店舗としては街全体の事業のときに常に負担が大きいのでは公平ではないと考えることになる。(c)データ活用に関する一般的懸念調査によって得られたデータを活用するためには、なんらかの分析が必要となるだろう。ところがその分析は一般的には特殊な技能を必要とするものと考えられている。このことから、専門家に依頼する費用が別途必要になるのではないかとの懸念が議論になる。得られたデータの活用方法が事前に明確に判っているものばかりとも限らないのだから、分析を引き受けるという宣言をすることは(地元で自分のビジネスを抱えている者にとってはなおさら)困難であろうし、多くの地方観光地にとって専門家を依頼する費用は小さくない。結果として合意を妨げる要因となる。(d)新しい方法論の導入に関する心理的不安新しい技術や考え方に接する機会を、誰しもが歓迎するとは限らない。ビジネスを継続してきたとの自負がある商店主や宿主にとって、サービス工学等の新しい概念を勉強する動機付けは高くない。また、これまでとは異なるやり方に対して最初から積極的である人は少数派であろう。自店舗を維持してきた人(これまでの方法で成功してきた人)ほど保守的であることはやむをえない。街づくりの合意形成の場は、会議体の原則どおり「一人一票」である。それゆえ街全体で新規事業を導入することは一般に難しい。3 インセンティブ付きの調査システムの提案プロジェクトの目的は中長期にわたって利用できる顧客(観光客)行動調査の仕組みを観光地に導入することであったが、調査システムを調査システムとして持ち込んだとしても容易には受け入れられないことが予想された。地元経営者にとって、より受け入れやすいインセンティブが必要

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