Vol.5 No.3 2012
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研究論文:新機能性ゲル材料と試薬化(吉田)−177−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)化される結果となったのは筆者にとって大きな励みとなった。試薬販売が開始されたことにより、研究開発用として外部研究機関にも試料を提供しやすい環境は整ったが、実践的な応用を考えた場合にはいまだ萌芽段階であることは否めない。根本的な課題として、率直に言えば、「ゲル化」そのものは極めて基盤的な化学現象であり、その現象自体から直ちに具体的な商品イメージが湧くという類の産業技術ではない。他方、これまでの多種多様な企業との技術相談を経て、「ゲル化」という基盤技術に対する期待が高いことは大きな確信につながっており、この技術を高めることで、さまざまな産業ひいては実社会に十分貢献できるものと捉えている。具体的には、産業応用上で実際にゲル化が望まれる溶媒または液体はさまざまな溶質を含んでいるケースがほとんどであり、それらへの適用のためには企業ユーザーのフィードバックを受けながら、個別にゲル化剤の性能をチューニングしていく必要があると考えられる。この点については、試薬販売のみではそのような相互理解まで含んだ十分な環境とは言えないため、その体制づくりが実践的応用に向けた大きな課題と考えている。技術論的には、ゲル化のさらなる高効率化とゲル化できる溶媒の数の拡大が挙げられる。そのために、新しい電解質ゲル化剤の調製にも積極的に取り組んでおり、2種類のモノマーを用いる共重合法により、種々の誘導体を合成しその高いゲル化能を確認している[13]。さらに、CNT分散機能については、その機能に特化した材料開発により、さらなる光応答性の付与等の高機能化に成功し[14]、現在CNTを利用した産業実用化のために企業との共同研究を開始している。他方、最近我々とは独立の研究グループから市販されたこのゲル化剤を用いることで、その溶液の撹拌方向に依存した不斉環境(円偏光(CD)活性)が誘起され(右回転と左回転の撹拌で、溶液の異なるCD活性が観測される)、その不斉場がゲル化によって固定化可能という前例のない極めて興味深い基礎的現象も報告され、大きな注目を集めている[15]。当初は新しいゲル化剤創製の目的で開発したこの材料はこのように多種多様な機能をもった新材料であることが明らかになりつつあり、今後の実用化に向けて、研究所内外の他の研究者と連携しながら、さらに研究に取り組んでいきたい。また、この論文の執筆作業に伴い、分子設計および合成手法の試行錯誤を行いながら化学的な見地から新材料の開発に取り組む上で、一つ一つの要素を最適化しながら組み上げていく「構成学」的考え方が重要であることを再認識した次第である。この論文が今後のそのような関連研究の一助となれば幸いである。謝辞この論文で紹介した新しいゲル材料に関する研究の内容は、以下に挙げる産総研内の共同研究者、甲村長利博士、三澤善大博士、松本一博士、玉置信之博士(現、北海道大学教授)、川波肇博士、カザウィ・サイ博士、南信次博士、Beena James博士、粟田智香子氏、大山春美氏との長年の共同作業による研究の成果です。ここに感謝の意を表します。また、多くの助言をいただいた現ナノシステム研究部門スマートマテリアルグループ員各位に感謝します。ゲルの動的粘弾性測定に際して、測定の機会と貴重な助言をいただいたティーエーインスツルメントジャパンの相川徹氏に感謝します。ゲルの構造解析に関する共同研究に協力していただいた東京大学物性研究所の柴山充弘教授、Shyamal Kumar Kundu博士に感謝します。この研究は、NEDO平成17年度第2回産業技術研究助成事業(ID:05A25710a)、および日本学術振興会科学技術研究費(22550137)の支援を受けて行われています。このゲル化剤の化学試薬としての販売開始にご尽力いただき、試薬化に関する貴重なご意見をいただいた、関東化学株式会社の佐藤勝彦氏、桂木速人氏、金澤幸広氏、吉田昌彦氏、吉野和典氏、岩井良太氏、岩井新氏、菅孝剛氏、他関係者の皆さまに深く感謝します。図6 試薬のパンフレット(関東化学㈱作成)(上)と販売された試薬(下)

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