Vol.5 No.3 2012
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研究論文:新機能性ゲル材料と試薬化(吉田)−176−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)ブ(SWCNT)と共に混合し、洗浄用の超音波照射器で一定時間超音波照射するだけで、水に不溶のSWCNTを溶解(孤立分散)させることが可能である。CNT分散が実現するためには、前述の既知文献[11]の例と同様に、有機電解質オリゴマーがSWCNTのπ表面と相互作用することで錯形成が起こり、水中に分散すると考えている。この溶液は長期間にわたり全く沈殿が生成しない安定溶液であり、この液体を利用したSWCNT薄膜の作成や、濃度を一定以上濃くした条件でのSWCNT分散ヒドロゲルの調製にも応用が可能である。これを利用することでプリンタブルエレクトロニクスにおけるCNTインク調製や、ナノ炭素材料に期待されているITO代替としての透明電極炭素膜作成への貢献を期待している。4.3.5 抗菌効果分子構造内にカチオン性のピリジニウム基を有する化合物は抗菌剤として働くことが知られ、実際に実用化されている。このゲル化剤も主鎖内に同様の官能基を有するため、その抗菌活性について外部機関に委託し評価したところ、グラム陽性菌(大腸菌)と陰性菌(黄色ブドウ球菌)の双方に対して、抗菌活性があることを見いだしている[12]。また、最小発育阻止濃度はそれぞれ32 μg/ml、64 μg/mlと十分に小さく、一般的な界面活性剤型抗菌材料とおよそ同等の値であることがわかった。5 産業技術応用を念頭に置いた試薬化に向けた取り組みこれまでに述べたようなさまざまな特徴を有するこのゲル化剤材料については、当初は基盤研究として運営費交付金(経済省から産総研に交付される機関助成資金)のもとで実施していた。その後、ある程度の結果を得た段階で、平成17年度のNEDO産業技術研究助成事業(ナノテク・材料分野)に採択されたことが、研究を大きく加速する契機となり、その後の研究展開につながった。NEDOへの申請当時は関連特許が数件出願済ではあったものの、学術論文は一切発表していなかった段階であり、その条件下でもなお高い審査評価を受けられたのは大変幸運であった。このNEDO支援を受けて、研究を開始した後は成果をできる限り広く知ってもらうことを目的に、産総研のプレス発表やナノテクノロジーに関連する展示会(nano tech 2008、2009、2010、オルガテクノ2008等)、産総研オープンラボ等のイベント出展を積極的に行うことで、継続的に周知に努めた。それまで学会での発表と議論は経験していたものの、そのようなイベント出展の場で企業サイドの方々と直に具体的技術課題に関して議論することができたのは貴重な経験だった。そのような地道な活動の甲斐があってか、さまざまな企業からゲル化に関する技術相談をいただき、その中から実際に有償の試料提供契約を締結してゲル化剤の性能テストを行う企業も現れた。また、日本有数の化学試薬会社の一つであり、とりわけイオン液体の製造販売に実績をもつ企業より、研究発表初期段階から同ゲル化剤材料の商品化に興味をもっていただき、活発に意見交換を行うことができた。この後、産総研イノベーションズ(当時)を介して正式なライセンス契約を結び、当初は試料提供契約の希望があった企業に対するサンプル提供手段として受託合成を引き受けていただいた。その後、2009年秋より化学試薬としての商品化に至った。当初筆者らは実験室レベルである10~20グラム収量程度の小スケールでしか合成反応を行った実績がなく、試薬とはいえこれまでより大スケールの反応において条件を最適化するのには労力を要した。しかし、上記企業の多くの研究員の方々の粘り強い検討により、論文発表した実験条件をある程度改善しながら、再現性や収率の向上を図った。その結果、種々のアニオン交換体を含めて、安定した性能を発揮する複数のゲル化剤の商品化につながったと考えている(図6)。この論文の執筆にあたり、「新しい試薬として販売するための条件」について、当該企業に意見を求めたところ、1)「これまでにできなかったことができるようになる:先進性」と、2)「これまでになかったものが生まれる:発展性」を最重要視するとのことであった。また、我々の開発したゲル化剤の試薬化に際しては、そのさまざまな特徴から、電池用電解質用途、導電性材料、インク増粘剤、その他(化粧品)等広い分野への研究に利用できると判断したとのコメントもいただいた。参考までに、アメリカ化学会が運営する全化学物質のデータベース(CAS)によれば、現時点で有機および無機化合物を含め、6,536万以上の化学物質が登録されている。他方、世界有数の試薬会社であるSigma-Aldrichの試薬データベースには、現在18.7万の商品が試薬として登録され実際に販売されている。他の化学会社を含めて、仮にこの3倍の数が試薬化されているとして、「全化学物質における試薬化率」を仮に計算すると0.86 %となり、試薬化される化合物が世界的にみてもとても狭き門であることが、読者の方々にも十分ご理解いただけるかと思う。そのような現状のもと、幸運にも試薬として販売されることで、多くの分野で産学官のさまざまな研究者に実際に手に取って性能をテストしてもらうことが可能となった。また、新材料としての知名度アップにもつながったと考えている。6 今後の課題と展開化学試薬というニッチな市場レベルとはいえ、自らの開発材料が注目され、研究目標に掲げたように実際に商品

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