Vol.5 No.3 2012
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研究論文:新機能性ゲル材料と試薬化(吉田)−175−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)いては、粘度が低い場合にはイオンの移動度が高くなるため電導度が上がる一方で密封状態で漏れやすくなるのに対し、漏れにくい高粘度のイオン液体では移動度の低下に伴って電導度が下がるというトレードオフの関係があった。この課題に対して、このゲル化剤の利用により、イオン電導度は保持したまま粘度のみを調節可能とする新しい技術が実現したといえる。したがって、イオン液体を電解液とする電気化学デバイス(色素増感太陽電池、キャパシタ、コンデンサ等)に利用することで、塗布プロセスの適用や漏れ防止による動作時間の長寿命化等、その性能向上に貢献が期待できる。4.3.3 自己修復性ゲル一般にゲルはソフトな性状をもつが故に、機械的な応力により容易にその構造が破壊されてしまう。他方、ゲルの種類によっては「チクソトロピー性」として知られる性質を示す場合がある。これは、応力付加に対応して粘度が変化し、高応力条件で流動性をもつゾルに変化し、あらためて応力を除いた場合にはゲルに戻るような性質である。しかし一般にこのゾルからゲルへの復帰は長時間を要するとされており、唯一の例外としてカチオン性の電荷を側鎖に有するブロック共重合体からなるヒドロゲルでは、この構造復帰が速く起こることがすでに報告されていた[8]。筆者らはこの既存例と電解質ゲル化剤との構造類似性に着目し、同様の性質が見られるか検討したところ、予想したとおりゲル構造破壊後、ゲルの固体性を示す貯蔵弾性率が極めて高速(数秒単位)に復帰するという興味深い自己修復特性をもっていることを見いだした[4][7][9]。この構造復帰は高濃度であるほどその速度が速い。なお余談であるが、筆者らは当時、ゲルの弾性率に関するレオロジー測定の実績が皆無であり、ある測定機器メーカーに依頼してサンプルのデモ測定を行っていただいた。その際、これまで多種多様のサンプルを測定してきた技術者の方が、筆者らのサンプルの測定データを目にして、「とても珍しい現象だと思います。」と指摘したことをとても印象深く記憶している。我々はモデル化合物の結晶構造解析(未発表データ)等からこの現象を、水素結合のような短距離相互作用ではなく、電解質ゲル化剤が電荷をもつことに起因する長距離静電相互作用によるゲルネットワークの修復によって達成されていると考えている。一旦壊れたゲル構造が瞬時に復帰することから、このゲルはある種の「非崩壊ゲル」と考えられ、この高速構造復帰特性を生かした衝撃吸収材等さまざまな分野での応用が期待される。なお、上記のゲルの高速自己修復性は、筆者らの報告が先駆けとなり、その後数多くの例で知られるようになった。そのうち、東京大学の相田卓三教授、Justin Lee Mynar特任助教(現King Abdullah University of Science and Technology (KAUST, Saudi Arabia))らと筆者らが共同研究を行った機能性ゲル「アクアマテリアル」においては、相補的な電荷をそれぞれ有する粘土由来のナノ粒子とデンドリマーの相互作用によって水のゲル形成が観察できた。このゲルにおいても高強度と自己修復性が確認されたことから、当該ゲル化の駆動力であり、さらに自己修復をもたらすと考えられる静電相互作用の重要性があらためて示唆された[10]。4.3.4 カーボンナノチューブとの複合化電解質ゲル化剤は、前述したようにそのゲル化の機能のみではなく、ナノテクノロジーにおける次世代材料として注目されるCNTに対しては特異的に「分散剤」として機能することがわかっている[4]。この結果は、唯一報告例が知られていた類似高分子電解質の例[11]から推察して見いだした機能であるが、筆者らはこの場合もCNTに関する研究蓄積は皆無の状況であった。しかし、たまたま同じ研究部門内にCNT研究に携わる研究者がいたため、CNTの提供をお願いし、併せて分散評価の測定も依頼できたのが現象の発見につながった。このような、近傍での異分野研究者の存在がなければ、この現象は発見が大きく遅れたと考えている。実際に、CNTの一種である単層カーボンナノチュー図5 倒立サンプル瓶中のイオン液体(EMIm-PF6)ゲル(文献4(サポーティングインフォメーション)より転載(ACS許諾済))40 g/L30 g/L20 g/L図4 倒立サンプル瓶中のヒドロゲルの写真(1 wt%濃度)左:純水ゲル、右:単層カーボンナノチューブを含有したゲル(文献5より転載)

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