Vol.5 No.3 2012
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研究論文:新機能性ゲル材料と試薬化(吉田)−174−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)づき、図3に示したように、化学試薬として購入可能な2種類の試薬(4-アミノピリジンおよび4-(クロロメチル)安息香酸クロリド)を、適当な塩基存在下で混合、加熱するだけの化学反応で合成を行った。前述した大量合成が可能な新材料実現のためには、「市販品として入手可能な出発原料を用いること」が構成学上の一つの要素と言える。この反応は、正確には最初のアミド化、続く分子間四級化反応の二段階の反応を経るが、最初の反応で生成する中間体の反応性が高く、速やかに二段階目の反応に至ることから、見かけ上は1段階の「ワンポット反応」である点が特徴である。なおこの材料は平均重合度(n)が10から20程度の「オリゴマー」(比較的低分子量のポリマー)であることがわかっている[4][5]。このような自己縮合による有機電解質の合成は極めて例が乏しく、これまで行われていた2種類のモノマーを事前に用意する必要がある共重合法とは、全く異なる合成化学的アプローチとして画期的である。これもこれまでの課題を解決するために特徴的な「少ない工程数」として、構成学上の重要な要素と考えられる。4.2 ゲル化挙動多くの物理ゲル化剤と同様な手法で、今回得られた有機電解質オリゴマーから水のゲルを簡便に作成することができる。すなわちこの粉末を1重量%程度以上の濃度で水に添加し、加熱→高温で溶解→(室温に放置して)冷却のプロセスを経て、水のゲル化が可能である(図4左)。物理ゲルの一般的特徴として、このゲルも熱的かつ可逆的ゲル-ゾル転移を示し、一旦擬固体化したゲルであっても高温にすると再び粘性を失った均一溶液となる。ゲル化の詳細なメカニズムはいまだ明確になっていないが、静電相互作用が重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあり、補完的に他の多様な相互作用が複合的に関与していると考えられる。なお、後述するが、このゲル化剤はカーボンナノチューブ(CNT)と親和性を有するためにCNTとの複合化が容易であり、単独物質でCNT含有のゲルを調製することもできた(図4右)。4.3 電解質ゲル化剤の多彩な機能有機電解質オリゴマーは、以下のような既存のゲル化剤では達成困難、もしくは全く実現することのできない興味深い特徴をもつことがわかっている。4.3.1 耐酸性天然物由来のゲルは、酸性条件ではその主要な分子構造が分解するために、酸性溶液のゲルを作成することはできない。しかし、この材料はそもそも酸性条件下で分解する官能基をもたないことから、耐酸性をもつことが予想された。実際にこの材料を用いることでpH=1程度の酸性水溶液のゲル化が可能となり、これまで困難であった酸性廃液の擬固体化への適用が期待できる(なお、塩基性条件ではゲル化剤の溶解性が低下するため、残念ながらゲル化には成功していない)。4.3.2 アニオン交換による相溶性制御電解質ゲル化剤は陽イオン性の有機部位と、それと対の陰イオンからなっており、調製直後の陰イオンは食塩と同じ塩化物イオンである。これを別のアニオンに置換することで、ゲル化剤の溶解性(相溶性)の制御が可能である。すなわち、母体化合物の塩化物イオンを、機能性溶媒として知られるイオン液体であるPF6、N(SO2CF3)2等のフッ素系脂溶性アニオンに置換することでゲル化剤の相溶性の制御を行い、水以外の溶媒にも適用することができる[4][5]。これを利用して、水だけではなく種々の有機溶媒や前述のイオン液体もゲル化することが可能である(図5)。したがって、一旦合成した後に目的に応じて溶解性を簡便に調節できる点が、これまでの人工ゲル化剤とは一線を画す大きな特徴であり、単一の分子骨格を有するという意味では、これまで調製が困難だった「両親媒性ゲル化剤」の実現といえる。なお、例えばイオン液体のゲル化においては、固有のイオン伝導度はゲル化後も数%しか低下せずに保持されることが明らかとなっている[4]-[6]。これまでイオン液体にお図3 電解質ゲル化剤の合成反応==CH2CI2CH2CICH2CIEt3NCIOONH2NNNH+nH2CCIONNHH2CCIONNHCH2CIONNHn

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