Vol.5 No.3 2012
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研究論文:新機能性ゲル材料と試薬化(吉田)−173−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)能な物理ゲル化剤に注目した。ゲル形成の際に生じる分子の自発的な集積と3次元的ネットワーク構造の形成は、合成分子の「自己組織化」として現在のナノテクノロジー分野で注目される現象である。この自己組織化を高度に制御すれば、構造と機能の両面から多様性をもつゲルの開発が可能と考えられる。また物理ゲル化剤は、反応における触媒のように極少量の存在で、基盤となる溶媒の粘性を劇的に変化させ、その一方で溶媒の基本的な物性は保持できるものである。よって、新しいゲル化剤の開発により、これまで不可能であった溶媒系でのゲル化が可能となれば、それはゲルの応用を一層拡大するものと期待される。この目的で筆者が、具体的に新材料の分子設計について指針とした考え方を、下記の図2に示す。この研究で注目したのは、「有機電解質化合物」である。分子の自己組織化の駆動力として働く分子間相互作用としては、官能基間の水素結合や、さらに疎水性相互作用等が一般的に知られ、実際にゲル化剤の系にも利用されている(図2中、これまでのゲル化剤)。一方、その両方を容易に複合化できると考えられる有機電解質化合物の自己組織化は、DNAの二重らせん構造とそのさらなる高度集積のような極めて複雑な天然物系において、生物学の観点から盛んに研究されている。しかし、人工的に合成された物質群においては、中性化合物の自己組織化に比べてこれまであまり注目されてこなかった。溶媒が水であるヒドロゲルの調製には、ゲル化剤が親水的な部分と疎水的な部分の両方、すなわち両親媒性をもつことが重要であり、これまでのゲル化剤の場合には、主に親水性に係る特性は水酸基やカルボキシル基等の親水的官能基によって担われてきた。他方、各種アンモニウム塩に代表されるような有機電解質は、そのような官能基をもたずとも、分子の塩構造(カチオンとアニオンの対になっている)によって親水性を示す点が特徴である。これを一つの重要な要素とした。他方、高分子電解質は、すでに機能性の高分子として電池の電解質や分離膜等広く応用が期待されているが、このような有機電解質に別途ゲル化のための相互作用が可能な官能基を組み込み、それをオリゴマー化(多重化)して多官能性とすることによりゲル化能の発現を期待した(図2中、下部)。この新しいコンセプトをできるだけ簡便に具現化する手法として、市販品として入手可能な出発原料を用いた、下記に示すワンポット自己縮合反応(一つの容器だけで反応可能、かつ分子が自発的に縮合して高分子量になる反応)を検討した。その結果、ゲル化能をもつ有機電解質オリゴマー(電解質ゲル化剤)の合成反応を確立した(図3)。この材料は、①耐酸性、②相溶性、③自己修復性、④カーボンナノチューブとの複合化能、⑤抗菌性等のさまざまな特徴を実際に有することがわかった。これらも「分子設計上の予測の下に発現する機能」として、構成学上の重要なポイントとなる。以下にその詳細を示す。4 電解質ゲル化剤の性質4.1 合成主鎖内に4級アンモニウム構造を有するポリマーは、イオネンポリマーと呼ばれ、通常はジアミン類(求核性)とジハロゲン化合物(求電子性)の2種類のモノマーの共重合法で合成される。我々は、分子内に求電子性と求核性の部位を同時に有し、分子内反応が起こらない剛直構造の両性モノマーを分子設計すれば、容易に新しい官能性有機電解質化合物の合成が可能と考えた。この方針に基図2 新しいゲル材料に至る分子設計開発した電解質ゲル化剤従来のゲル化剤自己組織化(ゲル化)溶媒分子溶媒分子多重化親水部としてアンモニウム塩化疎水部の代わりに別の官能基化

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