Vol.5 No.3 2012
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研究論文:新機能性ゲル材料と試薬化(吉田)−172−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)性ゲル」は、学術分野においても国内外で活発に研究が行われ、将来の高度利用が期待される材料として認知されている。一例として、経済産業省が編纂する「技術戦略マップ2010」内の「ナノテクノロジー・材料分野」においては、環境・ライフサイエンス・IT分野を支える基幹材料の一つとして、「機能性ゲル」が取り上げられ、その重要性が指摘されている[1]。さらに、最近発表された、(独)科学技術推進機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)による報告書「ナノテクノロジー・材料分野 科学技術・研究開発の国際比較 2011年版」においても、諸外国との比較から、日本がソフト材料(超分子)の分野において優位性を保ち、特に「機能性ゲルにおいて、幾つかのブレークスルーが遂げられており、周辺の研究を大きく押し上げている。」との重要な指摘がなされている[2]。したがって、我が国の基盤的な研究レベルの優位性をいかに高め、機能性ゲルを実践的な産業応用にどのように展開していくかが重要な課題といえる。機能性ゲル開発の優位性を高めるためには、より一層の高機能化が求められる一方で、それらを実現する新材料は、工業的な見地から大量合成が可能な簡便な方法で調製されなければならない。この観点から筆者は、この研究の目標として、この二つのポイント(高機能化・簡便合成)を両立した新材料創製を目指し、合成化学的見地から課題解決に取り組んだ。その結果として、これまで全く知られていなかった物質群である「電解質ゲル化剤」を独自に開発するに至った。この論文では、その開発経緯と化学試薬としての販売開始に向けた取り組み、現状の課題等について述べる。2 新規ゲル化剤開発に至った経緯と研究目標ゲルには、大別して化学ゲルと物理ゲルの2種類が知られ、それぞれに特徴を有している。例えば、化学ゲルはゲルを形成するネットワーク構造が共有結合からなるため、一般に高い弾性率を有し力学特性に優れているが、その分、歪に対してもろい性質がある。他方、物理ゲルは、ネットワーク構造が非共有結合性の相互作用(水素結合、π-π相互作用等)によって安定化されているため、加熱と冷却に伴い、可逆的にゾル-ゲル転移を起こすことが知られている。このような物理ゲルを形成する材料は、通常「ゲル化剤」と呼ばれ、天然物由来および人工ゲル化剤共に、すでに産業応用されている。表1にこの二つの特徴を大別した。寒天やゼラチンに代表される天然ゲル化剤は安全性が高く、とろみ用食品添加剤等として市販され安価に購入可能である。しかし、ゲル化の条件に制限があること、例えば、溶液の酸性度が中性であることが必須で、酸、アルカリ条件では分解が起こるため使用不可であること、一般の有機溶媒には溶解しないため、ゲル化できる溶媒に極端に制限があること等が知られている[3]。一方、化学的に合成された人工ゲル化剤は、適切な構造制御と官能基導入により、天然ゲル化剤には見られないさまざまな機能を付加することが可能である。その一方、一般的に人工ゲル化剤は多段階の合成と精製プロセスを必要とする。そのため、各段階における一定の収率が保証されない限り、総収率が低くなり、またカラムクロマトグラフィーといった大量に有機溶媒を使用する精製プロセスも大量合成には不適な場合が多い。その結果、学術レベルで活発な研究開発は行われているものの、合成スケール上は実験室レベル(収量で、多くても数グラム程度)での研究に留まっている例が多い。また、人工ゲル化剤の研究においてさえも、水と有機溶媒の両方ともゲル化できる「両親媒性ゲル化剤」の研究例は極めて少なく、1種類のゲル化剤でいかに多種類の溶媒をゲル化できるかは大きな課題となってきた。筆者は、2002年から2年間の米国留学中に行ったデンドリマーと呼ばれる樹状高分子研究の展開として、偶然初めてゲル材料の研究に携わることとなった。当時用いた材料は、合成に多工程を有する点で、やはり依然として大量合成には適さない系であった。さらに、ゲル化できる溶媒は有機溶媒に限られ、最も一般的な溶媒(液体)である水に対しては全くゲル化できなかった。これを契機に、筆者は帰国後、市販品として入手可能な出発原料を用い、できる限り少ない工程で合成でき、ゲル化機能を有する新材料を創製し、大量合成と商品化に耐えうる合成技術の開発を目標として研究を開始することとなった[4]-[7]。3 構成学としての分子設計:ゲル化剤としての有機電解質の利用化学の見地から考えれば、新しい材料とはすなわち新しい分子であり、その分子設計と合成に至る手法の最適化が一つの「構成学」と考えられるのではないだろうか。その意味で筆者は、比較的弱い相互作用によってゲルの形成が可表1 ゲル化剤の種類と性質の比較・一般に多工程合成が必要で、 大量合成には製造プロセス設計 が必要・使用可能な溶媒の種類が少ない・酸性条件で不安定・水以外の溶液のゲル化に は不適・化学修飾による機能化が困難課題・化学修飾が可能・刺激応答性等機能付加が可能・基礎研究多数・安価に購入可能・生体適合性が高い利点・吸水材、分離用クロマトグラ フィー、アクチュエータ等・食品、医薬品等の生体適合 性を生かした分野用途・各種合成高分子ゲル等・寒天、ゼラチン等化合物例人工ゲル化剤天然ゲル化剤

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