Vol.5 No.3 2012
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研究論文:圧電体薄膜を用いた圧力センサーの開発(秋山ほか)−163−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)性は得られていない。1992年にトヨタ自動車㈱は、センサー構造と設置方法を工夫することによってセンサー素子の最高温度を120 ℃以下におさえ、世界で初めて半導体圧力センサーを燃焼圧センサーとして量産車に搭載させたが、現在は使用されていない。また、2009年からドイツのBERUが、半導体圧力センサーを組み込んだ燃焼圧センサーの機能ももつ、グロープラグをアウディ社やフォルクスワーゲン社の一部のクリーンディーゼル車に搭載させているが、まだ広く普及していない。これに対して、圧電体の電気分極による電荷を検出して利用する圧電型センサーは、大学や企業等の研究室で一般的に使用されている。圧電型センサーはダイアフラムで受圧したエンジン筒内圧力を圧電体が検知する仕組みになっており、小型で、応答速度が高く、耐熱性に優れている等の長所をもつ[1]。一般的な圧電型燃焼圧センサーの圧電体には、水晶(SiO2)が用いられている。しかし、水晶の相転移点が573 ℃にあるため、使用限界温度は350 ℃程度であり、400 ℃以上の高温での計測には冷却を必要とする。そこで、耐熱性に優れた新しい圧電体の検討が行われている。図1に示すように、高い圧電性を示すものは使用限界温度が低い傾向があり、高い圧電生と耐熱性を併せもつ最適な圧電体を探し出すことは容易ではない。1997年頃には930 ℃の理論推定キュリー点をもつリン酸ガリウム(GaPO4)単結晶を使用したものが[1]、2003年頃には1470 ℃までキュリー点(相転移温度)をもたないランガサイト(La3Ga5SiO14)単結晶を使用したものが製品化されている[3]。最近では、酸化亜鉛(ZnO)単結晶を使用したものも提案されている。しかし、これらの単結晶を用いた燃焼圧センサーは、耐熱性には優れているものの一般的に高価であり、機械的な衝撃に対する耐久性が乏しく、センサー出力が低い等の問題点もあり、量産車には搭載されていない。以上のように、400 ℃以上の耐熱性と優れた耐久性(最低でも10年間以上)を示し、高出力で低価格な燃焼圧力センサーを実現するためには、圧電体材料および素子構造、センサー形状等あらゆる面で、これまでとは全く異なる新たな技術開発が必要とされている。このような状況において筆者らは、燃焼圧センサーの耐熱性と耐久性、高出力化、低価格化という困難な課題に同時に取り組み、量産車用燃焼圧センサーを開発することを目標として、2003年に産総研のハイテクものづくりプロジェクトの支援を受け本格的に研究に着手した。この研究は既存の燃焼圧センサーの改良・改善ではなく、耐久性と低価格化を実現するために、これまでの単結晶を用いたセンサーではなく薄膜を検知材料に応用し、高出力化のためにセンサー素子を積層させた構造を採用したという点において、世界初の燃焼圧センサーの研究開発である。2 量産車用燃焼圧センサーを開発するためのシナリオこの研究開発において、最終目標に設定した量産車用燃焼圧センサーの開発とそのための要素技術との統合のシナリオを図2に模式的に示す。既存の燃焼圧センサーが抱える課題(耐熱性、耐久性、高出力化、低価格化)を踏まえ、この研究開発の第1段階で重点的に取り組む課題として、以下の5項目を設定した。ANSOLNPNBITPTPZTBTGPKNPZNT LGSLF4110100100002004006008001000120010000使用限界温度(℃)圧電定数 d33 (pC/N)産総研:エネルギー技術研究部門明治大学理工学部第2段階第1段階高温環境下における圧電体薄膜の物性評価技術の開発過酷環境下におけるセンサーの性能評価と耐久性試験エンジンによるセンサーの性能評価技術の開発センサー素子とセンサー筐体の設計・作製技術の開発圧電体薄膜作製技術の開発自動車部品会社産総研:生産計測技術研究センター圧電体薄膜の電気的物性評価技術の開発③性能評価①構成材料の選定②センサーの試作量産車用燃焼圧センサーの開発図1 圧電定数d33と使用限界温度との関係AN: AlN、BT: BaTiO3、BIT: Bi4Ti3O12、GP: GaPO4、KN: KNbO3、LF4: (K0.44Na0.52Li0.04)(Nb0.86Ta0.10Sb0.04)3、LGS: La3Ga5SiO14、LN: LiNbO3、PN: PbNb2O6、PT: PbTiO3、PZNT: 0.92Pb(Zn1/3Nd2/3)O3-0.08PbTiO3、PZT: Pb(Zr0.52Ti0.48)O3、SO: SiO2図2 量産車用燃焼圧センサーの開発のための要素技術と統合のシナリオ

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