Vol.5 No.3 2012
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研究論文:地球観測データの統合的利用のための国際連携(岩男)−159−Synthesiology Vol.5 No.3(2012)用されなかった機関を含む審査対象機関には、各機関の採点結果は求めに応じて開示可能とした。6 評価結果まず、ユーザーの混乱の原因解明を行ったところ、実際には特定のウェブポータルとクリアリングハウスの組み合わせでしか共通基盤として機能しないことが判明した。このことが、検索結果に違いをもたらす原因の一つと特定された。検索や表示に関する独自のシステムを各機関が開発し、それらの高速化等を行ったことにより、他の機関とのシステム連携が実現されていなかった。また、公式には一機関しか提供していないはずのレジストリについても、クリアリングハウスの提供を申し出た機関のうちいくつかが、独自のデータも検索可能としていることが判明した。これらの二つが、ウェブポータルとクリアリングハウスとの組み合わせによって検索結果や利用できるサービスが異なる理由であった。各機関に特化した機能や独自データを追加することで機能の独自性や利便性を追求した結果、汎用性が失われたと言える。技術、ユーザー使用感、さらには、運用上の長期安定性を総合評価した結果、欧州宇宙機関と世界食糧機構が提供を申し出たウェブポータル、米国地質調査所が提供を申し出たクリアリングハウスを選定し、米国地質調査所が提供を申し出たレジストリを含むこれらの組み合わせを政府間会合の共通基盤として推奨した。評価結果報告書[12]は2010年に北京で開催された地球観測サミットにおいて承認された。結果的には、世界規模の地球観測をリードする欧米の機関が選抜された。共通基盤の要素技術の評価・選定は結果として、地球観測情報やサービスへのアクセスを行うための仕様をデファクト標準に任せるのではなく、デジュール標準として選定することになった。すでに各機関が運用している観測システムや情報システムの統合のようなことは求めないのが全球地球観測システムの理念であることを考えると、ユーザーが実際にシステムを利用していく中で、汎用性の低い技術が淘汰され、デファクト標準が形成されることが望ましい。しかし、各国や各機関の利害にも発展しうる標準策定には今回のようなデジュール標準を選定するアプローチの方が有効であったと考える。ウェブポータルに関しては、地球観測データを含む地理空間データの表示手法が標準化され、クリアリングハウスに関しては、地球観測データのメタデータの定義、さまざまな形式のデータを相互に利用できるようにする方式、データ検索の方式が標準化された。共通基盤の評価・選定の過程において、これらのデジュール標準が明示的に策定された。7 考察地球観測分野におけるデジュール標準が策定された今回の過程を振り返って、国際標準を作成するうえで留意した点をまとめる。第1に、デジュール標準の議論を行うにあたって国際的な合意形成を促進する策定コミュニティーを形成することに留意した。国際的に広く活用される技術と認知されるためには、各国の代表からなる技術専門家だけでなく、途上国を含む実務者・利用者が大きな影響力を発揮した。第2に、時間的スピードに留意した。デジュール標準を決める必要が生じているということはさまざまな独自技術が世の中に存在し、そのことがユーザーに混乱を生じさせている可能性が高い。混乱を早期に収束させるために、明確な期限を区切り、限られた時間の中で最適なデジュール標準を決めたことがユーザーに確実に便益をもたらすことになった。第3に、評価過程における公平性の担保に留意した。今回の例では、評価委員会とは別に審査チームを設置したこと、さらに政府間会合執行国委員会における評価指標の承認を経て実際の評価・審査を行うことで、評価結果の公平性の担保を幾重にも図った。国際標準を選定する過程において、このような評価の独立性や個々の審査の透明性の担保といった公平なプロセスにより、結果が広く受け入れられることになった。実際、今回選定されなかった私企業は、選定に関する不公平を表明することもなく、現在も政府間会合の活動支援を続けている。今回の評価が公正性を担保できたためであると考えられる。今回の評価・選定のプロセスは私企業のボランタリな参加を評価する際の指針とも位置付けることができるであろう。私企業にとっても今回の評価結果は世界中のさまざまな分野のユーザーによる評価をもとに行われており、自社の製品の利便性や問題点を整理するうえで有益な情報であったと考えられる。国際的な技術開発を行う立場から考えると、この共通基盤の評価・構築の過程で決められた評価項目に関する配点の重みは、国際標準を検討するうえで、一つの指針を示したと言える。この共通基盤のように国際的にも広く利用されるシステムは、技術的な優位性よりも、汎用性の方が重視され、採用されるとその方式が国際標準となる可能性が高い。今回の共通基盤の評価・構築は、欧米が推奨する地球観測に関するデジュール構築に関する国際合意形成の成功例としても位置付けることができる。例えばEUの科学技術研究開発制度である第7次研究枠組み計画(FP7)では、地球観測に関するすべての研究プロジェクトは、政府間会合へ貢献することが採択のうえでの必要条件と政策的に決められている。FP7は共通基盤に関する研究開発支援だけではなく、データやサービスの研究開発支援も積極

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