Vol.5 No.2 2012
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研究論文:サンゴ骨格分析による過去の気候変遷の復元(鈴木)−84−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)サンゴはアラレ石の骨格を分泌するが、時間の経過とともに地表の温度・圧力条件ではより安定な方解石に変化してしまう。通常、10万年を越えると未変質のサンゴ化石の産出は極めて稀である。しかし、この地層ではサンゴ化石を不透水層である泥岩が取り囲んでおり、初生的なアラレ石骨格の保存に効果的であったと思われる。採取された二つの群体のサンゴ化石について酸素同位体比組成(水温と塩分の指標)を分析し、計70年分の大気と海洋環境の季節変動および経年変動パターンを抽出した(図9a)。フィリピン周辺の海域は、水温と塩分の変動がエルニーニョ現象の影響を強く受けている場所であり、現生サンゴの酸素同位体比の変動パターンは、現在のエルニーニョ現象の変動パターンをよく記録していることがわかっている。現生サンゴを化石サンゴと同じ手法で解析した結果と比較したところ、鮮新世温暖期には現在とおよそ同じ周期でエルニーニョ現象が起こっていたことが明らかになった(図9b)。この結果は、これまで比較的有力であった温暖化地球ではエルニーニョ現象は起こらないとする永続的エルニーニョ説の可能性を否定するものである。また、将来の温暖化した地球においてもエルニーニョ現象が存在することを強く示唆する。今回の結果は、将来の温暖化におけるエルニーニョ現象の予測とその影響を予測するための新たなヒントになるであろう。5 異常高水温によるサンゴ白化現象とサンゴ礁生物多様性の減少1998年初頭、南半球のオーストラリア・グレートバリアリーフで発生したサンゴの白化現象は、季節の推移とともに北半球に移行し、1998年の8月には琉球列島周辺のサンゴ礁においても、かつて例をみない大規模なサンゴの白化現象が発生した[11]。サンゴ白化現象に関しては、サンゴと共生藻の関係について生物学的・生化学的な研究が盛んに行われてきたが、ここではサンゴの骨格に注目する。サンゴが白化したとき、骨格にはどのような記録が残るのであろうか?石垣島東岸の安良崎沖のサンゴ礁には、3つのハマサンゴ群体が融合した群体があり、1998年の大規模白化イベントに際し、一つの群体は白化を呈し、隣接する二つの群体は白化を起こさなかったことが確認されている[12]。骨格の成長軸に沿って高分解能で分析した酸素同位体比プロファイルに白化時期に対応するジャンプが認められ、白化直後から数カ月間、サンゴの骨格成長が停止したことによるものと解釈された[13]。なお、大規模白化イベントから4年が経過した2002年9月にこれらの群体から再び柱状試料が採取され、エックス線画像の観察が行われた。1998年部分の骨格だけ成長速度が顕著に低下した様子が確認できる(図10)。地球温暖化が進行し、高水温現象が頻発化すると、サンゴの骨格成長は阻害され、生育には不適切な環境になることが懸念される。一方で、高水温状態が3-4年Coral 2Coral 1Coral 1Coral 2寒冷/乾燥温暖/湿潤パワースペクトル密度酸素同位体比(パーミル)鮮新世温暖期のエルニーニョエルニーニョ指標現生サンゴ化石サンゴ周期(サイクル/年)年代(年)1950-19841985-2010ba35302520151050353025201510501246810000.5100.5100.50.100.1500.050.100.1500.05PSDPSD120.30.20.10-0.1-0.2-0.3-5.5-6.0-6.5-7.00.40.20-0.2-0.4-0.6-5.5-6.0-6.5-7.03-4年3-4年図9 (a) 二つの化石サンゴ群体に記録された鮮新世温暖期のエルニーニョ[10]。約350万年前における、時期の異なる二つのサンゴ群体(Cora11およびCoral2)のそれぞれ約35年間の年周変化を示す。黒線は酸素同位体比変動曲線、赤線は期間内での平均の酸素同位体比の季節パターン。青線は酸素同位体比の変動曲線から平均の季節パターンを差し引いて計算した異常値。黄色ハッチで示した期間がエルニーニョ現象と推定される。(b)パワースペクトル密度[10]。パワースペクトル密度は時系列データについて、どの周期で変動が大きいかを示し、周期的な変動成分を検出する目安となる。左からそれぞれ化石サンゴの酸素同位体比(青線;Coral1、赤線;Coral2)、現生サンゴの酸素同位体比、エルニーニョ指標(Nino 3.4 index:熱帯太平洋の水温異常値、青線;1985 年~2010 年、赤線;1950 年~1984 年まで期間)のパワースペクトル密度。0.3 サイクル/年(3−4年周期)付近に共通のピークがある。図10 石垣島のハマサンゴ骨格にみられる1998年8月の大規模白化イベントの影響白化を呈した群体と白化を起こさなかった群体骨格それぞれのエックス線写真と白化したサンゴ骨格の成長軸に沿う酸素同位体比プロファイル。2002年9月に採取された。白化2 cm白化群体酸素同位体比(‰)非白化群体

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