Vol.5 No.2 2012
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研究論文:ロボット技術を用いたスピニング加工(へら絞り)(荒井)−133−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)リンク作成の連絡をすると同時に産総研での研究内容を送付して紹介した。また、企業連絡先をリスト化し、展示会の前には近隣の企業に招待状を送付した。展示会で関心を示した企業には、資料や加工の動画CD、場合によっては加工サンプルを送る等のフォローアップに努めている。「スピニング加工」でgoogle検索をかけると第1位はこの研究のページで、第2位は上記のリンク集(2012年1月までに約2万9千ヒット)である。このページが入り口となったリンク依頼、技術相談、試作問い合わせ等企業からの接触も多い。こうした営業活動も、手持ちの限定された資源を組み合わせて効果を得ている点で、一種のブリコラージュと言える。もっとも、スピニング業界に広い販路をもつ㈱大東スピニングと連携してからは、アマチュア的な営業の出番も減ってきている。6 考察と今後の展開基本的に既存技術で構成されたこの研究の価値は、専門分野のはざまで見落とされたニッチ領域を発見できた点にあると思われる。ロボット分野と塑性加工分野の間の発想のギャップのために誰も着手していないところに、思い切って飛び込んだことが、異形成形のブレークスルーを生んだと考える。ロボット研究者は製造業への関心が低く、そこでの応用模索を怠り、塑性加工研究者はメカトロニクス知識が壁となって新規な制御技術の適用を敬遠するため、どちらからも空白となっていた所にうまくはまり込んだ形である。元来ブリコラージュは近代的な科学技術と対立する思考様式として文献[8]に登場する。しかしこの研究では、ブリコラージュが研究活動そのものとして重要な役割を果たした。ブリコラージュは既存かつ有限の資源から出発するが、各資源の意味の読み替えにより無限の組み合わせが生じ、新たな価値が創造される[14]。新製品の開発においても、本質的に新しい要素技術は通常ほんの一部分であり、大半は既存技術で構成されるため、そこにはブリコラージュが要求される。またブリコラージュでは、一般に使い慣れた手に入りやすい構成要素を使うため、信頼性が高く実用化の敷居の低い技術が得られると考えられる[11]。この研究では、当初のシナリオや自己のコア技術に固執せず、臨機応変に外部要因や結果のフィードバックに対応して研究を化けさせていったこと、とりわけ袋小路に陥りそうな方向から迅速に撤退したことが良い結果をもたらした。現場・現物・現実の三現主義が早期の判断の助けとなった。現時点では経済状況の影響もあって、いまだ実際の生産現場で十分使われておらず、売れる技術になっていない点が極めて不満足である。いわゆる「研究の手離れ」よりも普及に至るまでのアフターサービスを志向しており、最後まで責任をもちたいと考えている。多品種少量生産に有利といっても加工のスピードは重要であることが企業との交流から理解できたので、今後の展開として、加工機の高速化・強力化とそれに伴う課題に取り組みたい。また、マグネシウム等難加工材料への適用にも着手しており、材料学的な知見との融合もさらに必要と感じている。日本塑性加工学会編: スピニング加工技術, 日刊工業新聞社 (1984).荒井裕彦: ロボットによるスピニング加工の研究-力フィードバック制御を用いたしごきスピニング-, 日本ロボット学会誌, 22 (6), 798-805 (2004).荒井裕彦: ロボットによるスピニング加工の研究-力制御を用いた非軸対称製品の成形-, 日本ロボット学会誌, 24 (1), 140-145 (2006).荒井裕彦: リニアモータを用いた力制御スピニング加工機, 日本ロボット学会誌, 26 (1), 49-56 (2008).荒井裕彦, 藤村昭造, 岡崎功: 同期スピニング加工による非軸対称断面管の成形, 第56回塑性加工連合講演会講演論文集, 687-688 (2005).荒井裕彦ほか: 異形断面形状が成形可能な力制御スピニング加工機, 日本ロボット学会誌, 28 (1), 49-50 (2010).林晋, 黒川利明: 二つの合理性と日本のソフトウェア工学, 科学技術動向, 42, 11-21 (2004).http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt042j/0409_03_feature_articles/200409_fa01/200409_fa01.htmlC. レヴィ=ストロース(大橋訳), 野生の思考, みすず書房, 22-28 (1976).K. E. Weick: Making sense of the organization, Wiley-Blackwell, 57-68 (2000).C. Ciborra: The labyrinths of information: Challenging the wisdom of systems, Oxford University Press, 29-53 (2002).R. Garud and P. Karnoe: Bricolage versus breakthrough: Distributed and embedded agency in technology entrepreneurship, Research Policy, 32 (2), 277-300 (2003).http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048733302001002T. Baker, A. Miner and D. Eesley: Improvising firms: Bricolage, account giving and improvisational competency in the founding process, Research Policy, 32 (2), 255-276 (2003).http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048733302000999T. Baker and R.E. Nelson: Creating something from nothing: Resource construction through entrepreneurial bricolage, Administrative Science Quarterly, 50 (3), 329-366 (2005).http://asq.sagepub.com/content/50/3/329三宅秀道: ブリコラージュと製品開発, 東海大学紀要政治経済学部, 43, 161-175 (2011).http://www.u-tokai.ac.jp/undergraduate/political_science_and_eco/kiyou/index/pdf/2011/12_mitake.pdfE.S. ファーガソン: 技術屋(エンジニア)の心眼, 平凡社 (1995).A. Ozer and H. Arai: Robotic metal spinning – Experimental implementation using an industrial robot arm, Proc. 2009 IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation (ICRA2009), 140-145 (2009).小関智弘: 町工場 世界を超える技術報告, 小学館 (1999).小関智弘: 鉄を削る−町工場の技術, 筑摩書房 (2000).田窪朋仁,荒井裕彦,谷江和雄, 林原靖男: 人とロボットに[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11][12][13][14][15][16][17][18][19]参考文献

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