Vol.5 No.2 2012
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研究論文:ロボット技術を用いたスピニング加工(へら絞り)(荒井)−132−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)クトドライブロボット(関節軸に減速機を用いないロボット)による開ループ力制御の経験[20]から発想したものである。㈱大東スピニングとの連携により、現場での使用に根ざした手持ちの要素技術のレパートリーを増やすことができた。実用機プロトタイプの開発では、金属素材を主軸に固定するための心押し棒やブランク受け、素材の板にしわが発生するのを防ぐバックアップローラー等、これまでのスピニング加工機が備えていたさまざまな周辺機能を付加することで、実用性をより高めている。5.2 試作トライによる加工ノウハウの蓄積-現場・現物・現実に近づきたいこの研究では、企業との共同研究を通じた実部品の試作トライが大きな役割を果たしている。生産の現場をもたない産総研にとって決定的に不足するのは、経験の積み重ねに基づく要素技術へのフィードバックである。例えば異形断面形状の成形に成功したといっても、当初は限定された材料と加工条件の下での単純な形状の成形にすぎなかった。これをさまざまな金属材料、加熱下の温間加工、多サイクルの絞りスピニング、段やくびれのある複雑形状等へとバリエーションを広げていかなくてはならない。一方、どの要素を優先して開発を進めるべきかを絞り込まなくては、いたずらに労力を費やす結果となる。開発する価値のあるノウハウをピンポイントで選択して効率良く開発していくためには、企業と連携して、現実の部品を試作することが最も近道である。開発された加工技術は少なくとも類似部品に関しては無駄にならない。手持ちのノウハウを増やし、それらを組み合わせることで多彩な加工に対応することができる。金属加工業、自動車部品、計測機器、金属材料等多数のメーカーから試作テストの依頼を受け、保有している実験用加工機を駆使して企業から提示された部品の試作を行い、それを通じて加工に必要なノウハウを開発した(図11)。実際のテストはこれまでに10件程度だが、打診のみのケースを含めると30件以上にのぼる。テストには至らない場合でも、打ち合わせの過程で、どのような形状にニーズがあるのか把握することができ、とても参考となった。テストでは開発スピードが重要なため、治工具や材料等については企業から現物支給を受けた。また、加工機の改良に必要な設計データを取得した。こうした実績を積み種々の加工サンプルを揃えることは、加工法のPRともなった。実際の装置導入には至っていないものの、ユーザー企業から㈱大東スピニングに装置製作の見積り依頼を行うケースも出てきている。試作トライを通して、材料特性等の塑性加工知識の重要性を再認識した。またユーザーには、装置だけでなく加工ノウハウも提供する必要があることを理解した。試験の積み重ねにより、手持ちの治工具の種類が増えてきたため、これまでは難しかった形状や材料にも対応し易くなった。成形する形状は角筒、変形パイプ、湾曲形状等次第に難度の高いものとなっており、扱う材料も種類が増えて、異形部品成形のノウハウの幅を拡げることができた。工場の現場に入って加工テストを繰り返すうち、現場知識を取り入れてそれを開発に活かす機会も多い。筆者自身もかなり職人化することで、現場技術者との意思疎通が円滑となった。5.3 営業活動と研究活動の融合5.3.1 展示会における加工実演この研究では、外部の展示会に加工機を持ち込んだ加工実演を重視しており、現在までに出展回数は11回に上る。成果普及のメディアとしてとても有効であり、潜在ユーザーからのフィードバックを受ける場としても活用してきた。特に工作機械見本市等ものづくりの専門企業が多数出展する大規模展示会では、中小企業の現場作業者から大企業の管理職まで広い範囲のプロフェッショナルに加工を見せて、意見や質問を聞くことができた。とても厳しい意見も含め、実用化のために取り組むべき課題について、学会発表よりもはるかに有益な知見が得られた。試作トライを依頼してきた企業の大半は、展示会で加工実演を見た企業である。一方で、産学連携を目的とした分野不問の展示会では、専門家の来場者比率が少なく、あまりこうした効果は得られなかった。5.3.2 Web利用による営業活動上記の試作トライと展示会出展も営業活動の一環だが、Web利用を軸とした営業・広報も展開した。研究に着手した時期に、スピニング加工の業態、地域分布、加工例等を学ぶため、Web検索でスピニング加工関連の企業を検索した。国内115社・国外189社の企業が見つかり、開発した技術の受け皿として十分なボリュームをもつ産業であることが確認できた。これを基に「スピニング加工・へら絞りリンク集」というリンク集[21]を作成した。各社に対して ノウハウ蓄積装置設計データ装置改良装置実用化試作品試作実験加工法開発工程検討金型材料治工具試作品仕様産総研装置メーカー部品メーカー図11 試作トライによる加工ノウハウの蓄積
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