Vol.5 No.2 2012
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研究論文:ロボット技術を用いたスピニング加工(へら絞り)(荒井)−131−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)へら絞りも鍋釜を絞るところから始まったのであって、最初から高度な製品を作る熟練技能が完成していたわけではない。筋力や手技を機械に置き換えたとしても、再現できる技能は固定されたものでしかない。現場で試行錯誤して絶えず技能をレベルアップする人材は、やはり不可欠である。そこで熟練技能者の代替ではなく、人間が使いこなすことで威力を発揮する高度な道具としての装置開発を目指すようになった。4.4 異形形状成形への集中化一方、最初に作った装置では、力制御スピニングの応用により異形形状の成形に成功し、これがこの研究のセールスポイントとして製品イメージの中心となる。その頃、産学官連携部門の協力で、企業との定期的な交流を開始した。スピニング関連を含む数社の企業を招いた研究会で産総研のシーズを紹介する一方、企業側のニーズを聞くことで開発ターゲットをある程度絞込んだ。加工機メーカーの㈱大東スピニングはこの研究会に参加しており、異形形状の成形に深い関心を示して共同研究の申し出があった。この提案に基づいて中小企業庁による共同研究予算を獲得し、同期スピニングの実験機(図6)を試作した。力制御スピニングによる異形成形では加工時間の短縮が問題だったが、たまたま訪れた国際ロボット展でリニアモーターを見かけたことから、加工機への利用を考案した。この研究では学会発表よりも特許出願に力を入れていたが、リニアモーターを用いた加工機についての出願がきっかけとなって知的財産部門による特許強化の予算を獲得し、リニアモーター実験機(図4)を試作することができた。4.5 実用機の普及を目指して後述する試作トライと展示会での加工実演を繰り返すうち、㈱大東スピニングから知財ライセンス契約の申し出を受けた。これをもとに、特許関連予算により実用機プロトタイプの共同開発を行った(図7)。一方で、筆者自身は2009年に先進製造プロセス研究部門へ異動し、研究の重点をロボットの応用分野開拓から加工技術自体に移すこととなる。㈱大東スピニングでは異形形状に対応可能な加工機の受注生産も開始したが、リーマンショック以後の景気停滞で普及は滞っており、打開を模索している。4.6 シナリオに依存しない研究展開上記のように研究が進展する経過を辿ると、一貫したシナリオはなく、外部要因や偶然要因によって研究目標が大きく変遷していることが分かる。予算獲得や企業との交流、展示会への出展等のポジティブな外部要因としては、産総研内の産学官連携部門や知的財産部門からの働きかけというケースが多く、これらの研究支援部門がこの研究の進展に果たした役割はとても大きい。またこの研究では、工技院時代からの名残でロボット分野と製造分野の研究室がモザイク状態に混在して配置されていたことがプラスに作用し、特に塑性加工分野の知識習得でとても役立った。5 特徴的な研究活動5.1 ブリコラージュによる構成-ボトムアップの要素技術統合前章の冒頭で述べた加工機の自作も典型的なブリコラージュだが、この研究では随所でさまざまなレベルのブリコラージュを行っている。要素技術はおおよそ階層構造に整理でき、下位から見て実現すべき機能が上位から見れば要素技術となっている。例えば開始当初は力制御や位置制御を手持ちの要素技術としてもっていた。それらを組み合わせて、加工機の動作としての力制御スピニングや同期スピニングを実現した。次の段階では、それらを要素技術として組み合わせて、実際の部品に対して板材加工やパイプ加工を行った。このように下からの積み重ねで技術をストックした道具箱を充実させていった(図10)。このとき基本要素となっている制御則等は、ロボット分野で行った研究に由来しており、例えば力制御スピニングで用いたインピーダンス制御は、もともと人間とロボットの協調作業の研究[19]に用いていた制御則をアレンジして使っている。加工時間短縮のために採用したリニアモーターも、すぐ入手可能な既存の要素技術である一方、通常の用途とは少し違う使い方をしている。リニアモーターステージは高速・高精度の位置決めデバイスとして使われることが多いが、ここではバックドライバビリティ(力が加わったときに、柔軟にその力に追従して押し戻される特性)が優れた力制御用のアクチュエータとして用いた。資源のもつ属性を読み替えて、意図された機能とは異なる機能をも引き出して使うというブリコラージュの特徴が、ここにも見られる。また、リニアモーターではボールネジ等の伝達機構による損失がないことを利用して、力センサーを用いない開ループ制御で力制御を行っている。これは20年以上前に行った、ダイレ… … … 塑性加工分野ロボット分野部品成形パイプ成形板材成形軌道制御位置制御力制御同期スピニング力制御スピニング図10 要素技術の階層構造
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