Vol.5 No.2 2012
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研究論文:ロボット技術を用いたスピニング加工(へら絞り)(荒井)−129−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)いて採否には影響しない傾向がある。一方、いったん論文が採択されると、こうした虚構であるかもしれない研究目的を含めて研究内容がオーソライズされがちである。こうして作られた研究目的は、研究の存在意義を肯定するのに都合よくできているため、同じ系譜の研究では正当化の理由が継承されることが多い。また先行研究の存在自体が後発研究を正当化する場合もある。研究目的の再引用が繰り返され、多数の研究者間で流通するうちに、フィクションがあたかも検証された事実であるかのように錯覚され、独り歩きを始める危険性がある。筆者自身、虚構と自覚しつつ書いた研究目的がそのまま他の研究者に引用されるに至り、空恐ろしさを感じるようになった。この研究に着手した当時、ロボット分野では産学が乖離し、学術的な研究は盛んだが研究成果の実用化は進まない、という状況が続いていた。その背後には、こうした研究目的の虚構性という問題があると感じられた。また筆者は、それまで産業用ロボットへの関心が薄く、製造業分野を応用先として想定したことがあまりなかったが、それも実用に結びつく研究ができない原因の一つと考えた。こうした問題意識のもとに、ものづくり分野での実用的なロボット研究の課題を模索しはじめた。2.2 へら絞りとの出会い2001年8月にH2Aロケット1号機が打ち上げに成功し、そのノーズコーンがへら絞りで製作されたことから、へら絞りの作業がテレビで繰り返し放映された。その頃「ものづくり」のブームがあったことも一つの原因である。筆者はそれにより、へら絞りの存在を初めて知り、一種の直観としか説明できないが、この研究の着手を決心した。当初は、産業用ロボットの応用として、先端にローラー工具を取り付けたロボットアームを用いるへら絞り作業(図9)をイメージし、人工の熟練技能工の工学的な実現の一例として構想していた。ロボット工学においては、ロボットアームの力制御が長年にわたり研究され、多くの理論的・技術的な蓄積を有する。しかし、ロボット研究者の製造業離れとも相まって、力制御が実用化されているのは組立・研削等わずかな種類の作業にすぎず、付加価値性の高い有効な応用については、未だに模索の状態にあった。へら絞りでは作業者の感覚、特にローラーを介して伝わる力の感覚が重要な役割を果たす。また局所変形による加工のため、他の塑性加工と比べて加工力がはるかに小さい。制御パラメータが多く加工の自由度が高い点でも、ロボットに適した作業と考えた。手作業による生産がビジネスとして成立していることからもわかるように、多品種少量生産かつ高付加価値の加工法であり、ロボット技術を導入した際の採算性は高いと推測した。またこの研究には研究を通じたロボット研究者へのメッセージ発信という裏の意図も込めており、ロボット技術の特長とポテンシャルを活かせる良質な応用領域が、ものづくり分野に開けていることを具体的な応用例をもって示すことで、ロボット研究者の製造業への関心を喚起したいと考えた。3 研究のスタイルと行動原理3.1 ボトムアップの研究スタイルこの研究は、筆者にとってロボット分野から塑性加工分野という異分野への進出であり、予備知識ゼロからのスタートのため、何も分からない状態から手探りで研究を進めていった。そのため前章に述べた研究目標も正しく設定できているとは信じず、あくまで仮のものという前提に立った。したがってトップダウンで目標実現の具体的なシナリオを立て、開発すべき要素技術へとブレークダウンするという計画駆動的なやり方は選択しなかった。代わりに、「ロボット技術を応用してスピニング加工に役立つ技術を実用化する」という程度の緩い方向付けのもとで、曖昧な研究目標、仮のシナリオのまま、とりあえず手を動かしてものを作り、随時修正を加えるという戦術をとった。現物を動かすことで、研究の進展、新たな発想、認識の変化、偶然の外部要因等の状況変化が生ずる。それに応じて、目標変更やシナリオ書き換えを常に行う。また、要素技術はその場その場での手持ちのありあわせを使い回し、第一の選択基準は今すぐ手に入って使えることとした。こうしたものを使って開発された技術を、新たに要素技術のストックに加えた。ボトムアップで探索的なアプローチであり、分析的な計画による事前合理性よりも結果のフィードバックによって得られる事後合理性[7]を重視した。3.2 研究の方向性と行動原理基本的な方向性は、実用化の優先で、学術的な興味よりも有用性を第一に考え、さきに述べた研究目的の虚構性を極力排除するよう努めた。また行動原理としては、①ブロボットアーム力覚センサ加工ローラー金型ワークモータ回転軸図9 初期の構想(へら絞りロボット)

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