Vol.5 No.2 2012
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研究論文:サンゴ骨格分析による過去の気候変遷の復元(鈴木)−81−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)十万年のスケールでの気候変動にかかわる研究のレビューが行われた[1]。この中で、熱帯・亜熱帯域のサンゴ試料の酸素同位体比などの間接指標を用いた高時間解像度(約2週間)の海洋環境復元の研究成果が数多く引用されている。低緯度海域の多くの箇所から現生の大型サンゴにより最近200年間の海水温がそれ以前に比べて明瞭に高い状態にあることを示したことは、サンゴ骨格気候学の成果の代表例とされている。図2に古気候復元に用いられるさまざまな研究対象とサンゴ骨格研究の位置付けを示した[1][2]。また、小氷期用語1や中世の温暖期、完新世用語2あるいは350万年前の鮮新世用語3温暖期といわれる時代のサンゴ化石から、当時の気候を復元することも重要な課題である。サンゴ骨格を用いた研究手法は、異常高水温によるサンゴ白化現象や、海洋酸性化現象の解明にも貢献できる。この論文では、現生および化石サンゴの骨格を対象として、過去の気候変遷の復元を目指す研究について、近年のブレークスルーをテーマとし、さまざまな指標を複合的に評価して進展している最新の研究例を解説しつつ、地球環境の将来の予測精度を向上するための方法論を論じる。2 サンゴ骨格の化学組成から過去の水温と塩分を知る熱帯から亜熱帯の浅海域に広く分布するハマサンゴ(Porites)属等の塊状群体には、炭酸カルシウムを主成分とする骨格を1年間に厚さ1〜2 cmずつ分泌しながら、過去数百年にわたり成長を続けるものがある(図1)。骨格は密度の高い部分と低い部分が交互に重なり、通常これで1年の年輪を形成している。群体表面が生きているサンゴから柱状試料を採取すれば、年輪を数えることにより、骨格の形成年代を正確に知ることができる。骨格の成長軸に沿って0.2〜0.4 mm間隔で微小試料を切削して分析することにより月単位あるいはそれよりも高い分解能で古気候を復元できる。サンゴ骨格の化学組成の中でも、酸素同位体比は研究例が多い。通常、酸素同位体比は、試料中の同位体比(18O/16O)について標準試料に対する千分偏差を求めて、δ18Oと表記する。炭酸カルシウムに含まれる酸素の同位体比、および海水の水に含まれる酸素の同位体比は、それぞれ添え字cおよびwを付けて、δ18Oc、δ18Owと表す。炭酸カルシウムの酸素同位体比(δ18Oc)は、析出したときの水温と海水の酸素同位体比(塩分に相関)に依存する(図4)。骨格の酸素同位体比から水温の推定のためには、その群体上部の酸素同位体比と水温観測記録を比較して得られる関係式を用いることが望ましい。また、骨格成長速度が化学組成に与える影響を避けるために、成長速度が5 mm y−1以上の群体の最大成長軸に沿った分析を行う。年間を通じて塩分の変化が小さい海域では、サンゴの酸素同位体比は水温のよい指標となる。例えば、琉球列島石垣島のサンゴの酸素同位体比は水温とよく対応している[3]。図2 古気候復元に用いられる研究対象とサンゴ骨格研究の位置付け(a)過去550万年間の気温の変化についての推定例[2]。深海底堆積物の柱状試料から得られた底生有孔虫の炭酸塩殻の酸素同位体比が、全球の氷床量のよい指標となることから、過去の気温を推定したもの。南極域について現在との気温差を推定したもので、緯度や地域により気温差の絶対値については大きく異なる。(b)過去1200年間の気温の変遷(文献[1]のFigure 6.10.cより)。1961-1990年の平均値に対する偏差が示され、多数の研究の一致度が濃淡で示されている。(c) サンゴ骨格およびその他の古気候復元に用いられる研究対象の産出範囲と分析手法、時間分解能を模式的に示した。図3 造礁サンゴ年輪に関する論文数の変遷オーストラリア海洋科学研究所のホームページに掲載されているAUSCORE, Coral banding bibliographyの論文数より(http://www.aims.gov.au/pages/auscore/auscore-08.html)。産総研が関与した論文を黒のシンボルで示した。0100200010-2-42004000年代(万年前)1000年代(AD)0-4-8鮮新世温暖期1万年(c)(b)(a)小氷期データ一致度(%)気温(℃)換算気温(℃)ガス分析有機物分析元素分析同位体比分析時間範囲分析対象空間分布要素技術時間分解能1年~10~100年~1月鍾乳石広範囲地球環境の将来予測の高度化湖沼堆積物低緯度高緯度現在100年1000年10万年300万年氷床コア分析サンゴ骨格樹木年輪海底堆積物20001990198019701960195019401930出版年Sr/Ca比複合指標法年輪X線撮像酸素同位体比年輪の発見論文数0102030405060

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