Vol.5 No.2 2012
38/76

研究論文:災害救助支援のための情報共有プラットフォーム(野田)−114−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)外を含めた災害に対するには臨機応変な判断が不可欠であり、そのためにはできるだけ多くの、そして確度の高い情報を収集・共有する必要がある[3][4]。その意味で、先端的なITを用いた防災情報システムが災害対策を改善できる余地は少なからずあると思われる。しかし実際には、東日本大震災でも相変わらず手書きのメモが壁一面に張られ、ホワイトボードにさまざまな情報が書き散らされているのが現実である。また、組織間の連絡も相変わらずFAXが主流であり、情報伝達の遅延や欠落の原因となっている。もちろん、この情報収集・共有の重要性は広く認識されており、国や各県・市町村において、各種防災情報システムが構築されているが、残念ながら、今回の震災でもこれらのシステムが期待どおりに効果を発揮したという事例はあまり耳にしない。この防災情報システムがなかなか活用できない理由としては、防災専用で変更のきかない閉じたシステムとして設計されている点が大きいと思われる。他の災害対策と同様、情報システムについても臨機応変が求められる。このような困難を克服できる災害情報システムを設計する上で重要となる視点が、臨機応変さとライフサイクルである。災害で生じる現象は多岐にわたるため、それらすべてに対処できる情報処理機能を予見して事前にシステムに組み込んでおくことはおよそ不可能である。実際、東日本大震災後の自治体ヒアリング[5]でも、事前の防災計画をいろいろと手直しせざるを得なかったことが明らかになっている。一方、今回の震災では5節でも述べるように、情報ボランティアによる支援が有効に機能した。このボランティアによる活動の特徴は事後に必要に応じてシステムを組み上げていく臨機応変さである。もちろん災害情報システムをすべて事後に構築することは現実的ではないが、このような臨機応変さを取り込む余地をシステム設計時に考慮しておくことは、必須の要件と考えられる。また、ライフサイクルの視点とは、日進月歩の情報技術の進歩と百年・千年に一度の大災害という、時間スケールの差の捕らえ方である。つまり、その時々の最先端技術を数多く盛り込むことよりも、時間の経過とともに各技術が廃れて次の技術に引き継がれていくところに留意して、災害情報システムを設計していかなければならない。この二つの視点を取り込んだ災害情報システム設計手法を確立するため、この論文では「データ中心のアドホックなシステム構築」という考え方を導入する。この考え方では、次の3点を情報システムの構築時の設計方針とする。・オープンシステム:システムの各機能を切り出しての利用や他のシステムとの連携を前提として、情報システムを構築する設計方針。臨機応変およびライフサイクルの視点に応える。・汎用的データフォーマット・プロトコル標準:機能の連携を簡単化し、また、システムの置き換え・引き継ぎを容易にするため、連携部分を共通化する設計方針。臨機応変およびライフサイクルの視点に応える。・ダウンワードスケーラビリティ注1):情報機器・インフラの規模や種類を選ばずにどこでも動作させられるための設計方針。臨機応変の視点に応える。そして、これらの設計方針を実現する基盤技術として、システムの基本デザインとなる減災情報プラットフォームとその核となる共有プロトコル(MISP)およびデータベース(DaRuMa)を紹介する。これら視点・設計方針・基盤技術の関係を図1に示す。次節以降、この論文は次のような構成をとる。まず2章において減災情報共有プラットフォームとそのプロトコル・データベースについて述べる。次に3章において、提案プラットフォームの設計方針を防災・減災の視点で議論する。4章では、提案プラットフォームによる実証システムや実働システム例について紹介する。さらに5章では東日本大震災でのいくつかの事例を取り上げ、上記の設計方針の有効性と問題点を議論する。2 減災情報共有プラットフォームの設計思想と実装この章ではまず、この論文で提案する災害情報共有のための枠組みである減災情報共有プラットフォーム[6][7]の設計思想と、その実装の要となる減災情報共有プロトコル(Mitigation Information Sharing Protocol、以下、MISP)および減災情報共有データベース(DAtabase for Rescue Utility Management、DaRuMa)について述べる。2.1 データ中心のモジュール連携による減災情報共有プラットフォーム我々が想定している災害情報共有の枠組みは、図2に示すように、異なる組織で運用される各種災害情報システム(以下ではモジュールと呼ぶ)を、データベースを介して連携させるものである。この枠組みをここでは減災情報共有プラットフォームと呼ぶ。ダウンワードスケーラビリティオープンシステムライフサイクル(3.1節)臨機応変(3.2節)汎用的データフォーマット・プロトコル減災情報共有プラットフォーム(2.1節)MISP(2.2節)DaRuMa(2.3節)データ中心のアドホックなシステム連携図1 災害情報システムの視点・設計方針・基盤技術の関係

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です