Vol.5 No.2 2012
30/76

研究論文:鉄鋼厚板製造プロセスにおける一貫最適化に向けて(西岡ほか)−106−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)の生産管理における常識であった、秒単位の製造ライン・月単位の生産計画・長大な製造工期・在庫という時間的プロセス構造が、在庫の流れを製造ラインの流れと同期化(ジャスト・イン・タイム)することによって、生産管理における時間スケールはメインラインのそれに同期化される。一方、厚板製造に関する生産管理の時間プロセス構造に注目すると、それはプロセッシング(秒単位)、ロット計画(時単位)、日計画(日単位)、週計画(週単位)、月次計画(月単位)という時間的なマルチスケール階層構造として成立しており、現場の操業とスタッフによる生産管理はこのような階層構造を与件として行われてきた。これまでは、月次計画において想定される品種構成に基づき、各工程の能力を表計算にて算定するマクロ能力モデルが存在したが、筆者らは、厚板製造の一貫最適化を実現する過程において、能率モデル、所要時間/仕掛モデル、製造工期モデル、という3モデルを構築した。これらのモデルは、厚板製造における時間的なマルチスケール階層構造に対応している。すなわち、能率モデルは秒(プロセッシング)〜時(ロット)計画〜日計画に、所要時間/仕掛モデルは、時(ロット)計画〜日計画〜週計画に、製造工期モデルは、日計画〜週計画〜月計画に関するものであり、3モデルはそれぞれ相互に関連する。能率モデルによって、能率や処理負荷が分かるだけでなく、プロセスパラメータやロット計画等の変数から、品種ごとに下流工程で発生する工程の発生率(品種毎工程発生率)が得られる。この処理負荷および品種毎工程発生率を日/週計画とともに所要時間/仕掛モデルに入れることで、工程の所要時間と仕掛量が求められる。日/週計画および月次計画で決められた品種に対して、能率モデルから得られる品種毎工程発生率と所要時間/仕掛モデルから得られる所要時間を製造工期モデルに入力することで製造工期が求められる(図6)。前章に示したように、現場での試行錯誤は、複雑な工程と製品仕様を有する厚板製造に対して、異なる時間スケール(階層)をまたがり、要求される計画精度と生産/注文の変動への対応力を両立する生産管理システムを成立させるに至った。筆者らは、同システムを時間に関するマルチスケール階層構造の視点から把握し、生産管理に関するマルチスケール階層モデルとして概念化することを提案する。複雑な組織構造を有する鉄鋼材料に関する材料研究の分野において、Olsonは、空間的なマルチスケール階層モデルを提案し、階層ごとに独立に構築した物理モデルの有機的な結合により、サブナノスケールの電子レベルの量子力学的現象、ナノスケールの転位を含む原子配列構造、ミクロンスケールの変態現象、ミリ~メートルレベルの実用鋼の組織と特性を包括的に記述可能であることを示した[23]。筆者らは、この空間的なマルチスケール階層モデルを、時間的なマルチスケール構造の記述に適用する。すなわち、生産管理の時間スケールを3階層に分割し、それぞれの階層ごとに能率モデル、所要時間/仕掛モデル、製造工期モデルを対応させるとともに、これらを有機的に連結する一貫生産管理に関する時間的マルチスケール階層モデルを提案する(図6)。本モデルは、厚板製造における時間に関するマルチスケール性を明らかにし、ミクロ(個別工程におけるプロセッシング)からマクロ(製造工期の管理)に至る意思決定に関する定量的な評価と最適点の探索を可能とする一貫モデルである。本モデルにより、プッシュ型の生産管理手法による上流工程におけるプロセス条件の最適化と、出荷を基軸としたプル型の生産管理を志向する下流工程における製造工期の短縮という両立が難しい要請を、バランスよく調整するための最適スケジュールの探索が可能となった。生産管理モデルの難しさは時間スケールの階層性にあるが、階層構造を有する複雑な物理現象を記述することは、鉄冶金学の研究開発における最も基本的な研究テーマである。筆者の一人(水谷)は、米国における博士研究において、物理現象を発現させるメカニズムをモデル化する際に構造を階層ごとに分割することによる単純化が有効であることを学習し、身に付いていた。さらに、当該技術者は、理論を理論として机上で学習することに加え、知識の活用の場を製造の現場に移した。そこで、先行事例としてのリーン生産方式に関する知見と技術者が体得していた研究の進め方のノウハウを現場の活動を通じて融合することにより、複雑現象を階層構造として分析することを可能にしたと考えられる。図6 生産管理マルチスケール階層モデル 所要時間/仕掛モデル銑鋼一貫能力各工程所要時間/仕掛構造レベル生産管理製造工期各工程能率/処理負荷品種ごと工程発生率マクロ能力モデル製造工期モデルプロセス条件ロット計画日計画週計画月次計画能率モデル

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です