Vol.5 No.2 2012
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研究論文:鉄鋼厚板製造プロセスにおける一貫最適化に向けて(西岡ほか)−102−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)おける製造工期の最適化を動的に実現する必要がある。生産変動・ばらつきが大きい鉄鋼業において、これまで利用可能なMRP、APS等がなかったため、筆者らは、一連のモデルを順次構築し、現場に導入した。5.2 新しい生産管理システム構築の経緯(1)能率モデルこれまで、厚板生産において、メインラインである圧延工程の能率(圧延工程の場合は、時間当たりの処理スラブ量)向上は一貫して最重要の課題であった。これまでは、個別設備の増強がその主たる対策であったが、短周期での設備増強投資は経営上の負担が大きいことから容易ではない。TMCP技術の拡大に伴う圧延の高負荷化、多品種化による能率低下を克服することを目的に、筆者らは、連続、直結、直列に配置された圧延工程全体の能率向上への取り組みを開始した。圧延各工程の能率は、製品仕様に応じて大きく変動する。また、工程間のバッファが小さいため、前後材料の処理の干渉(前後の処理の時間が異なることで生じる無駄な待ち時間)が頻繁に発生し、材料ごとにプロセス中のボトルネック工程が逐次変化する。ボトルネック対策の重要性はTOC理論(Theory of Constraint)[14]に明らかだが、圧延工程に対して単純なボトルネック対策を適用することは困難であることから、圧延各工程間の干渉に起因する能率低下を定量的に評価可能とする新たな能率モデルの構築に取り組んだ。能率モデルの構築の背景にはTOC理論が圧延工程のような連続かつ複雑な工程における問題解決にも適用可能であるという仮説があった。(2)製造工期モデル能率モデルの活用による工程設計の最適化とボトルネック工程への適切な設備増強により、圧延工程の生産能率は飛躍的に向上したが、それに伴い精整工程の能力不足が顕在化し、処理すべき量の変動に由来する仕掛品の増大を招いた。これに対処するため、精整全工程にわたる各工程の能率向上に取り組むとともに、研究開発部隊の協力を得て、離散事象システムをモデル化するシミュレーションツールによる物流シミュレーターを開発し、仕掛品の削減と工期短縮に取り組んだが、十分な成果をあげるには至らなかった。シミュレーターは、日ごとの製造ロットや品種構成、各精整工程の処理能力、稼働率等のパラメーターを所与の条件としており、処理優先順位の微調整を目的としていた点に、本来的な問題があったと考えられる。筆者らは、先行事例であるリーン生産方式の学習を通して、物流シミュレーターの限界も踏まえ、ボトルネック工程への適切な設備投資を実行するとともに、平準化生産が最重要であることをあらためて認識した。そこで、製造ロットの拡大と精整負荷の平準化の両立を図ることを目的に、製造工期のばらつきと納期達成率の関係、さらには、品種構成、製造ロットサイズと、製造工期、在庫の関係を包括的に記述可能な製造工期モデルの構築に取り組んだ。(3)所要時間/仕掛モデル上記の取り組みによって、これまで予測が困難であった品種ごとの製造工期と、それに対する工程ごとの通過所要時間の関係が明らかになった。しかし、各工程の通過所要時間がどのように決まるのか、またその制御因子は何か、ということは明確には理解されていなかった。一方、厚板の精整工程のように事象発生の頻度および間隔、処理の間隔にばらつきがある場合の待ち時間の解析に関しては待ち行列理論(Queuing System Theory)[12]が存在しており、工程ごとの通過所要時間と仕掛量を記述可能なモデルの開発が、待ち行列理論に基づく所要時間/仕掛モデルの構築によって可能となった。5.3 能率モデルの構築厚板生産は、上流の圧延工程と下流の精整工程に大別されることはすでに述べた。圧延工程は、加熱、圧延、冷却等により構成され、各工程は、連続、直結、直列に配置されている。一方、精整工程は、熱処理、超音波探傷、塗装、ガス、矯正、手入等により構成され、各工程は、独立、並列に配置されている。厚板の圧延工程のように多品種が混流することによって各工程の能率が大きく変動し、なおかつ工程が連続、直結、直列配置される場合、材料ごとのプロセス条件に応じて各工程の能率が変動してボトルネック工程が逐次変化する。それに伴い、前後材料の処理の干渉が頻繁に発生し、工程全体としての能率が大きく変動する。一方、工程が独立配置の場合、工程間に十分なバッファとしての仕掛をもつことが可能なので、工程間の処理が干渉することはまれで、各工程の能率は材料ごとのプロセス条件によりおよそ一意に決定される。筆者らは、TMCP・加速冷却技術の適用拡大による高負荷化、多品種化を克服し、圧延能率の向上を図るためには、材料の多品種化に伴うプロセス条件の多様化と処理ロットサイズの低下に起因する圧延各工程間の干渉の低減が、最重要の課題であると考えた。そこで、材料仕様に応じたプロセス条件および処理ロットサイズから各工程の能率を定めるとともに、ボトルネック工程を特定し、工程間の干渉に起因する能率の低下を定量的に評価可能とする能率モデルの構築を試みた。圧延各工程には、能率に影響を与える異なる因子が存在する。例えば、加熱工程では、加熱開始温度、加熱条件等、粗圧延工程では、加熱抽出温度、圧延サイズ等、仕上圧延工程では、TMCP温度、圧延スラブ重量等があげられ
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