Vol.5 No.2 2012
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研究論文:鉄鋼厚板製造プロセスにおける一貫最適化に向けて(西岡ほか)−101−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)ドル層に一元的意思決定の権限が与えられ、ミドル層が企業家として活動する機会が与えられた。君津製鉄所では、それまでは、工程管理等の共通部門が個別製品を生産する各製造部門を支援する組織体制であったが、組織改編の結果、それまでは共通部門にあった工程管理、品質管理、設備整備という厚板の製造にかかわるすべての機能が厚板工場に統合された。新体制のもとで、厚板工場長は工場経営に対する一元的権限を活用し、厚板生産に関する管理体制の革新に着手した。工場を単位とする一貫最適化こそが、長期にわたる製品競争力の源泉であるという視点から、これまでの設備単位の生産性向上を目指す生産管理から、仕掛品削減による製造工期短縮を目指す生産管理へと経営パラダイムを大きくシフトした。そして、本来はプッシュ型に適した工程構造をもつ厚板製造に対して、プル型構造を起源にもつリーン生産方式を適用するという挑戦が始まった。4.3 現場ミドルマネジメントの対応圧延工程は厚板工場の品質・コストに大きな影響を与えるため、工場長は圧延能率の向上をまず目標にして、生産管理に対する支援モデルの開発とその適用に取り組んだ。次に、圧延能率の向上による精整工程の能力不足に対応するために、ボトルネック工程(矯正工程等)に加え、精整全工程にわたる各工程の能率の向上に取り組んだ。これまで、精整工程は圧延のサブ工程として位置付けられていたため、設備保全に関する対応はブレークダウン・メンテナンス(BDM)が中心となっていたが、設備・装置を必要なときに必要な状態で稼働することを目的に、厚板工場に統合された設備整備部門とラインが一体となってトータル・プロダクティブ・メンテナンス(TPM)活動を開始した。さらに、工場経営の全体最適化のためには、現場の製造ラインの一貫最適化に関連したスタッフによる一連のバックアップが必要になった。なによりも、精整工程における仕掛品削減は、前工程の生産ロットの拡大を制約することにより、短期的なコストプッシュ要因となる可能性があるため、精整工程における仕掛削減は個別設備の能率向上だけでは解決できず、計画レベルにおける工程負荷の平準化が必要であった。生産ロットの設計(材料設計)は工程管理スタッフの業務であるが、精整負荷の平準化を考慮した材料設計を行う仕組みは当時存在していなかった。この問題に対処するために、現場操業を熟知し、システム開発にも優れた技術スタッフを工程管理グループに投入し、コスト・能率・製造工期の視点から精整負荷を平準化する支援システムを構築した。以上の作業が時系列的にどのように進展したかについて、技術的な詳細を次節に述べる。5 厚板工場における生産管理システムの革新5.1 支援システム開発の歴史生産管理の体系および日程計画の類型に関しては、自動車業における観察をもとに、計画のタイプを大日程(全般的生産)計画、中日程(基準生産)計画、小日程(順序)計画に分類し、それぞれのタイプについて、計画期間、日程の単位、計画修正の頻度、製品カテゴリー、計画対象といった計画要素が整理される[12]。生産管理の支援システムについては、MRP(Material Requirement Planning;資材所要量計画)が1950年代半ばにゼネラル・エレクトリック社で導入されて以来、当初のMRPの弱点を克服するために、MRPⅡ、ERP(Enterprise Resource Planning)、また、APS(Advanced Planning and Scheduling)といった生産計画支援システムが開発された。その利用と普及に関しては、MRPとAPSについて単純かつ安定的な製造工程に対する適用事例が報告されているのに対して、複雑かつ生産変動が頻繁に発生する製造工程に対する適用事例はいまだ報告されていない[12]-[21]。この現状は、リーン生産方式に代表されるプル型の生産管理が効果的な組み立て産業においては多段階で計画の見直しを行うので、実着工に近づくのに伴って部品発注等の計画精度が必然的に高くなるため[12]、異なった時間スケールの計画間を動的かつ有機的に連結する包括的なモデル/支援システムを構築するニーズが必ずしも高くなかったことを反映している。一方、代表的なプロセス産業である鉄鋼業では、一貫連続する大規模設備の操業のために、膨大な制御情報、生産管理情報が必要となることから、他産業に先駆けて大規模計算機援用による生産管理システムを導入してきた[13]。鉄鋼業の生産管理システムは、本質的にはプッシュ型の生産管理に対応し、高熱・高温プロセス工程の最適制御、上流工程の生産変動への対応、および注文情報の集約による製造ロットの極大化の実現を重視してきた。そのため、中間財工程の製造工期と在庫を検討する一貫最適化のための計画立案、スケジューリング支援への対応は極めて限定的であった。さらに、近年の製品の高度化と仕様の多様化によって、厚板製造では生産管理の複雑性が増大した。通過工程が異なる多品種の製品を組み合わせて大規模生産を行うため、製造開始段階において個別中間財の通過工程を確定することはできず、製造工期の予測、制御は極めて困難であった。このような環境下でプル型生産管理を実現するためには、製造ロットのサイズが各工程の能率および製造工期に及ぼす影響を包括的に把握できるモデルを構築し、支援システムを活用することにより、製造ロットサイズと全工程に
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