Vol.5 No.2 2012
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研究論文:鉄鋼厚板製造プロセスにおける一貫最適化に向けて(西岡ほか)−100−Synthesiology Vol.5 No.2(2012)分けることが可能になり、近年の厚板における新鋼材開発において基盤技術の役割を果たしている。しかし、TMCP鋼は形状確保が難しく、数メートルオーダーの幅と長さを有する巨大な厚板を均質に冷却することは容易ではない。さらに、高級鋼の製造では付加価値を付けるための熱処理、塗装等の一連の工程が増加するため、精整工程における負荷(処理能力に対する処理すべき量)の増大、一貫生産能力の低下、製造工期延長、在庫増大といった問題が顕在化した。3 自動車業におけるリーン生産方式との比較自動車業におけるリーン生産方式とはどのような生産管理であったのであろう。まず、自動車業の特徴として、組み立てラインにおける時間の有効活用が目標とされた。目標の実現のために、自動化やジャスト・イン・タイムという形で概念化されたさまざまな手法が援用され、製造現場における無駄の排除が徹底され、市場動向と生産工程の変動に柔軟に対応できる生産方式が完成した[4]-[7]。同生産方式の本質は、最終マーケットに向けて下流工程が必要なものを必要なだけ最適のタイミングで上流工程が提供するプル型生産管理にある[2][8]。組み立て産業では、電気機器メーカーを中心に、流れ作業でない例えばセル生産方式が導入されているが[9]、同方式も時間を有効に管理する点でその目的はリーン生産方式と等しい。組み立て産業で大きな成功をあげた生産方式が、鉄鋼業において、これまで大きな成功をみなかったのはなぜであろうか。その理由を考える上で、組み立て産業とプロセス産業の工程構造は本質的に異なることを認識する必要がある。リーン生産方式はメインラインの徹底的な平準化を前提として、サブラインと同期を図ることにより成立する。一方、鉄鋼業は高炉-転炉-圧延という一貫工程を所与とし、設備の大規模化による能率向上を追求してきた。厚板工場は上流工程において規模を追求するプッシュ型工程構造の中に位置付けられるため、下流工程に合わせて各作業工程が連動しながら在庫と製造工期の最小化を追求するプル型工程構造を前提とするリーン生産方式を適用することは困難であった。鉄鋼業における能率向上においては、一品一品の注文から半製品−出鋼といった、関連する上流工程において生産ロットを大きくすることが重要であり、その結果、上流工程で大きく造って下流工程で小さく造り分ける「ロットをまとめる」プロセスが不可欠と考えられてきた。上流工程における規模の追求は品種やサイズの等しい中間財を生産することであり、通常は必要とされる生産ロットは製品の出荷ロットと比較すると大きいため、納期の異なる製品の中間財が混在するとともに、跛行性をもって下流工程を流れることになる。このような工程構造が仕掛品を増大させる原因であり、単純にリーン生産方式から学ぶことによる製造工期の短縮は困難であった。4 厚板製造における一貫最適化の取り組み4.1 これまでの取り組み日本の鉄鋼業は、1973年のオイルショック以降の長期にわたる構造的な不況の中で、縮小再生産と合理化を進め、労働生産性の向上に注力してきた。一方、厚板の主要ユーザーである造船、建築、橋梁、タンク、ラインパイプ等の分野では軽量化、高機能化、複合特性化が進み、厚板には高強度化、高靭性化、高耐環境性化等の製品特性が求められた。新機能材はTMCP技術を利用して開発されたが、加速冷却材には一般材に比較して圧延能率用語3が低下するという問題があった。さらに、TMCP技術の適用が進むにつれて、形状を確保するための矯正工程用語4の負荷が高くなった結果、品種構成の高度化とともに精整工程の高負荷化が進展した。このような状況のもと、精整能力向上の必要性が次第に認識されていったが、厚板生産において工場全体の一貫能率を向上することは難しいとされ、生産システムのボトルネックの解消は、製造工期短縮による短期的な収益向上効果が見えない中では優先して取り組む経営目標ではなかった。さらに、製銑-製鋼という上流工程は一貫製鉄所のコスト構造で大きな比重を占めるため、コスト視点からの製鉄所マネジメントの関心は上流工程に偏りがちであった。その結果、製品品種の高度化とともに発生する仕掛品の増加やロットの細分化への対応は遅れがちとなった。現場に慢性的な仕掛品の滞留を許容する操業体制が定着化する中で、需要の増大時には精整工程のボトルネックが顕在化し、大幅な製造工期の延長による納期遅れや受注調整を必要とする事態が発生したが、現場ではボトルネック工程への人員投入等の対症療法的な対応が常態であった。4.2 一貫最適化を可能にした経営革新工場単位での全体最適を可能にする生産管理の実現のためには、それを可能にする一連の経営革新が存在しなければならない。日本の粗鋼生産が長期低迷する中で、新日鉄は長期にわたり経営の合理化を進めてきたが、1990年代に入り、経営トップの強力なリーダーシップのもとで鉄鋼事業の競争力強化を目的に組織・経営体制の改革が進められた。中心になったのが製販一体化を含む品種別経営であり[10]、本社機能のスリム化と階層の圧縮による組織の大幅な統合・改編である[11]。1997年に行われた全社規模の組織改革によって、現場の経営に対して工場長等のミ

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