Vol.5 No.1 2012
8/84

研究論文:高品質なプロジェクトマネジメントを実現するトレーサビリティ・マトリックスの構築(榮谷ほか)−5−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)れ、設計ミスを誘発してしまう。独自の表記方法という情報移転を難しくする要因により、高い移転コストを生じてしまう事例である。したがって、要素間の関係は、極力独立性を保つこと、具体的には行列を用いて二つの要素間の関係を整理した場合、一番独立性の高い対角行列に近づけること、また要素自体の難易度(例えば前述のように作業の難しさを意味する概念。詳細は後述)を低減することが情報移転コストを低減するために必要である。言い換えると、プロジェクトのアーキクチャにおいて情報移転コストを低減し正確に情報を移転するためには、情報粘着性と多義性という概念を要素間の相互依存性と要素自体のもつ難易度で制御することが必要である。3.4 プロジェクトのアーキテクチャ基礎概念で示した図2の関係性をマトリックスで表現すると図3のようになる。この関係性はベクトルを用いると以下のような行列計算(式1)と同意である。 r = At(式1)要求条件ベクトル、チームベクトル、システムマトリックス-----その結果得られたトレーサビリティ・マトリックスはこの研究ではシステム全体の特性を示すという意味でシステムマトリックスと呼ぶこととする。このように行列を掛け算することで、担当と要求条件との関係を明示するトレーサビリティ・マトリックス(システムマトリックス)を得ることができる。4 木も見て森も見るための指標要素間で正確な情報移転を促し、より高品質なプロジェクトマネジメントを実現するためには、前述のとおり情報粘着性と多義性をマネジメントすることが必要である。多義性をマネジメントするためには、担当、作業、成果物等の領域間または領域内での要素間の関係性(以下、相互依存性と定義)を制御する必要がある。関係性のある要素数の増加に伴って情報移転を誤る確率は高まるからである。つまり、相互依存性が高まれば多義性も増加する。多義性により生じるコストを無理に低減してしまうと、複数の受け手が誤った意味付けを行う可能性も増加する。また、情報粘着性をマネジメントするには要素自体が抱える正確な情報移転を阻む要因(以下、難易度と定義)を制御する必要がある。要素自体の特性によっては、情報を移転する際に理解すべき本質的な情報までたどり着かず、情報移転を誤る確率が高まる。つまり、難易度が高まれば情報粘着性も高まり、剥ぎ取るべき情報を剥ぎ取りきれずに移転を終えてしまうことも考えられる。以上から、情報移転の正確性は相互依存性と難易度で決まる。プロジェクト全体の視点から見ると、相互依存性を抑制して正しく情報移転する確率と難易度を下げて正しく情報移転する確率の積によって、プロジェクト全体で情報が正確に移転される確率も決まる。したがって、プロジェクト全体としては、相互依存性と難易度の積を複雑性と定義し、その複雑性を指標として制御する必要がある。4.1 相互依存性の定量化対角行列に近い方が全体の見通しも良くなる。また情報移転の観点からも多義性が低くなる。そのため、多義性の要因となる要素間の“相互依存性”の評価にはシステムマトリックスと単位行列との距離を測ればよい。単位行列と比較するにあたり、非対角成分の数が多いほど多義性が高くなることが表現できる必要がある。そのため、線形性のあるユークリッドノルムを用いて距離を測ることとした。つまり、評価するシステムマトリックスから単位行列を引き、そのマトリックスのユークリッドノルムが相互依存性となる。ただし、相互依存性に対するシステムマトリックスの成分値は、要素間の関係性がある場合は1を、関係性がない場合は0を設定することとする。以降はこれをシステムマトリックスsと呼ぶ。4.2 難易度の定量化要素の情報粘着性により生じる要素の“難易度”については、システムマトリックスの成分値で表現することとし、難易度を成分値とするシステムマトリックスをシステムマトリックスnと呼ぶ。このシステムマトリックスn全体の大きさを評価することで難易度の定量化が可能になる。そのため、単位行列の何倍の大きさをもった行列であるか、つまりシステムマトリックスnのユークリッドノルムによって評価する。ただし、難易度に対するシステムマトリックスnの成機能部品成果物作業担当要求条件基本要件機能部品成果物作業要求条件基本要件ニーズトレーサビリティ・マトリックス図3 プロジェクトのトレーサビリティ・マトリックス

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です