Vol.5 No.1 2012
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−66−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)報告:シンセシオロジー(構成学):知の統合からイノベーションへこれには有償のライセンス契約の締結を前提とするパテント・プールと、無償での使用を前提とするコモンズがありますが、どのような要素を選択して、どういうパッケージを作るか、それらをいかに普及させていくかが重要になります。パテント・プールの有名な例としてMPEG-2がありますが、パテント・ポートフォリオを作ってパッケージでライセンスして、ビジネスとしても非常に成功しています。農業の分野でのGolden Riceは、ビタミンAを大量に含有し、途上国の人々への栄養状態に貢献するライスですが、特許はアメリカだけで70件以上、マテリアル・トランスファー契約も6件結ばなければいけないというものをパッケージ化することによって、個別の権利者と交渉する手間やコストを省いて技術の普及に促進しているケースです。もう一つの例として、グラクソ・スミスクライン社は、企業の一つのCSR活動とも言えるのですけれども、Neglected Tropical Diseaseに関する特許を集めて低価格で提供するというパテント・プールの構築を試みており、他社に参加を呼びかけています。その他にオープンソースでソフトウエアを開発するのと同じような動きが農業分野にもあります。オーストラリアのCAMBIAはBiOSライセンスを受けたライセンシーに対して、改良発明が生じた場合、他者が自由に使えるようにすることを求めています。一方、コモンズは、例えば毒性のある医薬品のデータを集めて、その毒性試験に関する二重投資を防ぐ構想や、エコ・パテントコモンズのように特定分野の特許を集合化・パッケージ化して、無償でそれを使えるようにしています。二つ目は「研究開発を複数の機関が共同で行うと同時に知的財産の管理も一定のルールのもとで執り行う」というものです。iPS細胞のような幹細胞を医薬品の毒性試験に使えるようにしようというSC4SM(Stem Cells for Safer Medicines)はイギリスの官民コンソーシアムですが、政府機関や大手製薬が参加し、仕組みを開発すると同時に、開発された特許のマネジメントを行っています。最後に、今後求められることとして「エネルギー消費量の削減と経済活性化の両立」のための新技術の開発について触れたいと思います。震災後の状況の中、エネルギー消費量を削減しながらも経済の活性化を止めないことが重要です。そのためには広くニーズを収集するための仕組みづくりや、必要な要素を開発し、それをうまく組み合わせる研究開発、そして新しい技術が社会に普及するようにしなければいけません。これは一つの具体策ですが、ニーズの収集を募るためにWikipediaのようなだれでも書き込めるボトムアップ型のウェブサイトを設置する。必要な要素の開発や組み合わせについては、専門家による委員会等により緊急的に必要な技術を認定し、税制上の優遇措置や特許料の減免措置により研究開発を促進する。そして、実装した製品が普及できるよう、搭載した製品を使用する企業に対して税制上の優遇措置をとる、といった仕組みが考えられるのではないでしょうか。特に、知的財産権の扱い、ならびに、特許料の減免も研究開発促進機能をもつのではないかということで、討論の素材としてあげさせていただきました。 赤松 幹之(シンセシオロジー編集幹事、産業技術総合研究所) これまで研究開発が実際の市場で使われるプロセスとして一般的だったのは要素技術者を企業の人が探して、それを使うという流れでした。「シンセシオロジー」では研究者側から成果が社会で実現できる方法論の確立を目指しています。どのようなシナリオやプロセスで研究が社会に展開されていったかを70編余の「シンセシオロジー」の論文を分析・類型化しましたので、幾つか紹介したいと思います。「社会でニーズが明確化されている場合」です。スピントロニクスを使ってハードディスクの高性能化をする研究では、大きく性能が上がったことを示すと企業がすぐ食いついてきてくれます。さらに、研究者が製造装置の開発に寄与することで企業に使ってもらいやすくなる。また、計量標準のトレーサビリティのように使われ方が社会構造として確立している場合もあります。これに対して「社会のニーズが明確化されていない場合」があります。この場合には、①“使ってみる”というプロセスが有用です。有機材料でナノチューブができた、その使用法の可能性は無限にあると思うので、サンプルを提供して使い道を見つけていきたい。ここでのポイントの一つは、製造プロセスに使えるくらいの大量製造ができることを示した上でサンプルを提供するということです。もう一つの例として、愛知万博で展示物を説明するときに使った無電源携帯情報端末(Aimulet)は、展示会やイベントで使ってもらうことによってニーズを掘り起こしたり、改良点についてフィードバックをかけながら技術開発をすすめていくという・要素の選択・統合⇒目標の達成・知的財産権: 個々の権利の行使による独占排他権の確保 (=研究開発のブロック、遅延) ↓ 知的財産の選択・統合によるプール化・流通促進 (=研究開発の促進、ナレッジへのアクセス促進)知的財産権もSynthesisの時代へ

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