Vol.5 No.1 2012
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−63−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)報告:研究・技術計画学会構成学ワークショップ−シンセシオロジー(構成学):知の統合からイノベーションへ−ました。これに対して自然のように既に存在するものではなく、未だないもの、目的を持った人工物を作ろうという営みがあります。シナリオを作り、それぞれの学問領域で得られた知識要素を用いて素材・部品、製品、システム、サービス、環境をつくります。ここでは要素の構成(シンセシス)や統合というプロセスが非常に重要になります。前者を「科学」、後者を「技術」と定義しますと、いったん作られた人工物は「存在物」として認識され、分析の対象になり、分析の結果をまた技術に使う、これが「科学」と「技術」の相互作用だと思っています。言わば、日本語で言うところの“工学”です。しかし現在、工学でさえもその専門領域は細分化される傾向にあります。学問領域Cの法則・データ統合と構成(シンセシス)分析(アナリシス)要素の選択 領域の選択シナリオ C素材・部品・要素 3知識の体系化知識要素 3要素への還元階層化 シナリオドリブン製品システムサービス環境市場投入仮説検証企画・計画仮説形成知識要素 2知識要素 1素材・部品・要素 2素材・部品・要素 1シナリオ Bシナリオ A自然・存在物人工物(社会的価値) 技 術 科 学 事実的知識の集積当為的知識の集積学問領域C学問領域B学問領域A学問領域Bの法則・データ学問領域Aの法則・データ分析的研究と構成的研究の対比“”“”分析的研究と構成的研究を対比してみましょう。手法については、分析的研究は分析と理解、構成的研究は構成と統合です。対象とする領域は、前者は通常単一の学問領域、後者は複数の学問領域にまたがることが多いと思います。そしてこの二つの非常に大きな相違は、解の一意性があるか、ということです。事実的知識には唯一の解があるという信念のもと、分析的研究は唯一解に収束するまで研究を続け、そこに至って研究が終了します。しかし、構成的研究は複数の同等な解がありえます。解の間に優劣はあるかもしれませんが、同等な解が複数ありうるという、非常に異なった構造をしています。ですから、研究を評価するとき、分析的研究では専門家によるピアレビューを行います。細分化された領域では結論が唯一解であるかどうかを見極めるのはその領域の専門家でないとわからない。しかし、構成的研究では、むしろその研究成果を利用する人たち、つまりメリットを受ける人たちが評価すべきではないか。非専門家によるメリットレビューという形になると思っています。地球環境問題をはじめ現代社会の課題は非常に複合的です。「アナリシスの科学」だけでなく「シンセシスの科学」が必要とされているにもかかわらず、その「シンセシスの科学」はまだ十分に定式化されておらず、何をどのようになすべきかという当為的知識も研究者個人あるいは各組織の中に閉じて蓄積されているだけです。そのような知識を散逸させずに社会の財産として蓄積し、利用可能なものにしたい、そして「シンセシスの科学」ができる研究者をハイライトしたい、世の中でもっと活躍していただきたい、そしてイノベーションを促進したいと思っています。我々にとってのイノベーションとは、「基礎研究と現実の社会とをいかに強く関係づけるか」ということです。「シンセシスの科学」の方法論を確立し、その実践をとおして現代社会の問題を解決すること、そのためには「シンセシスの科学」を記述する論文形式を開発することが重要であると考え、新ジャーナル「シンセシオロジー」を刊行しました。「シンセシオロジー」の特徴は、狭い領域から広い領域へ、知識の新規性よりも有用性へ、ピアレビューからメリットレビューへ、そしてイノベーションに有用な研究者をハイライトすることです。もう一つ、著者と査読者との議論は査読者名を公開して論文の後ろに掲載しています。通常の学術雑誌では、中立性・公平性の観点から匿名で査読が行われるわけですが、我々は著者と査読者あるいは読者が協力しながら論文形式を開発していくという立場に立ちまして、著者と査読者とのやりとりを掲載しております。わかったことは、査読者も自分の名前が出るとなると偏った意見を出せないという、むしろ自ら、中立・公正であらねばならぬという自律的なフィードバックが働いて、大変よい査読意見を出していただいて著者との間で興味ある議論が成立しています。読者の中には、まず著者と査読者とのやりとりを読んでから論文本体を読むという方もおられるくらいです。これまで4年間に、いろいろな方からご意見をいただいてまいりましたが、著者からは「これまでの学術雑誌では書けないことが書けた」、一般読者からは「他分野の研究が理解できておもしろい」、産業界からは「多分野の研究がわかり有益な情報である」という好意的な意見をいただいています。現代社会の問題を解決すること、そのために「シンセシスの科学」の方法論を確立し、「シンセシスの科学」を実践することが重要です。「シンセシスの科学」をとおしてイノベーションを加速することができると考えております。(特別講演)イノベーションとシンセシオロジー ~知の創出と再編成は社会価値転換と産業競争力強化にどう役立ちうるか~妹尾 堅一郎(産学連携推進機構、一橋大学(なお、ワークショップ当日
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