Vol.5 No.1 2012
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研究論文:家庭用固体高分子形燃料電池の実用的耐久性確保のための技術開発(谷本ほか)−58−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)の実証のため、電極を微小な多セグメントに分割した「100分割セル」(図6)を作製し、一つのセル内の発電電流分布、局所電位分布の経時変化を測定できるようにし、何種類かのガス切り替え過渡状態を作り出して測定を行った。その結果、「逆電流メカニズム」で想定されているタイプの過渡状態では、局所的に約1.6Vという異常な高電位(通常の運転であれば材料は1 Vより高い電位にはさらされない)が生じていることを実測することに成功した[6]。また、これ以外のタイプの過渡状態の測定から、我々の提案している劣化加速試験での条件と密接に関連する二つの現象を見い出した。一つは、アノードガスを窒素から燃料に切り替えた場合でも「逆電流メカニズム」と同様にカソード劣化をもたらしうる高電位が生じること、もう一つは、カソードガスを窒素から空気に切り替えた際に、1 V以下の電位領域内ではあるもののアノードが局所的に高い電位(約0.7 V等)になることである。これらはそれぞれ「劣化加速手法2」と「劣化加速手法1」で起きている現象を理論的に説明可能にする研究成果となった。ここで、カソードガス切り替え実験においてアノード局所電位が例えば0.7 Vに上昇する現象は、アノード触媒に含まれるルテニウムが溶出するという点で劣化要因であるということは論をまたないが、1 V以下であるためカーボン材料に対しては無害であると考えられていた。しかし、カーボンの腐食速度に影響を与える因子を詳細に調べる目的で、ビーカーセルを用いた基礎的試験を行ったところ、これまでほとんど腐食をもたらさないと考えられていた1 V以下の領域においても、電位の変動がカーボン腐食の促進要因となることを見い出した[7]。この知見も併せて考えると、「劣化加速手法1」での劣化はルテニウム溶出のみならずカーボン腐食も加速されていることがわかった。PEFCカソードでは劣化に伴い有効な白金触媒表面積が減少するが、これは白金の溶解による消失や粒径増大と、担体カーボンの腐食に伴う脱落や凝集がある。我々はこれらの現象を調べるため、「その場観察」に近い知見が得られると考えられる「同一場所観察」手法を考案し、モデル電極上の白金粒子の脱落・凝集の顕微鏡観察(AFM、SEM)を行うとともに、白金の存在がカーボン腐食を促進する現象をとらえた[8][9]。これらの成果は、劣化加速条件下で起きている劣化現象を正確に把握する上での基礎的な貢献となったと考えている。5 劣化加速手法開発から商品化へ劣化要因としての「電極でのフラッディングの進行によるガス拡散性の低下」を加速的に進行させて劣化を加速する試験方法として、二つのガス切替法を提案した。カソードでの水の滞留によるフラッディングの現象は、触媒担持カーボン表面での親水性官能基の生成によると予想された。その親水基の生成には開放電圧である1V程度を放置しておいてもカーボンの酸化を大きく促進させることはないが、カソードガスやアノードガスの切替での電位変動を起こすことで、そのような官能基の生成をもたらすことが示唆された。また、ガス切替の条件によっては1.6 V程度の高電位も発生することがモデル電池の実験から確認され、これらのガス切替法による劣化加速手法の合理性が説明される。触媒層のガス拡散性の低下は、触媒担持カーボンの電気化学的反応に起因すると考えられた。アノードにおけるルテニウムの溶出現象はモデル電池の発電後の電解質膜や電極触媒層等の分析・観察からも確認できた。これらの挙動が、白金−ルテニウム合金触媒の耐CO被毒性を時間とともに低下させていると考えられる。アノードガス切替条件では、アノードの電位上昇が確認された。この加速条件は、定常発電条件では起こりえないと考えられていたが、局部的なガス組成の分布が電位上昇を引き起こすことから、アノード触媒のルテニウムの溶出を加速していると考えられた。500 nmPt/C50 μm N2 87h175 μm N2 87h175 μm Air 30h175 μm Air 87h図5 電位保持による劣化試験を行った後のPt/C電極触媒層と電解質膜界面付近の電子顕微鏡像(a)50 µmの電解質膜を使用し、カソードに窒素を供給し87時間1.0 Vで保持。(b)175 µmの電解質膜を使用し、カソードに窒素を供給し87時間1.0 Vで保持。(c)175 µmの電解質膜を使用し、カソードに空気を供給し30時間1.0 Vで保持。(d)175 µmの電解質膜を使用し、カソードに空気を供給し87時間1.0 Vで保持。図6 部分電流・局所電位測定用に作製した「100分割セル」の分割電極部外観
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