Vol.5 No.1 2012
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研究論文:家庭用固体高分子形燃料電池の実用的耐久性確保のための技術開発(谷本ほか)−57−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)る重要な因子となりうる。4.2 実電池の劣化観察劣化試験を行った実電池の微細構造をミクロレベルで観察するために、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電極触媒の構造観察を行った。TEMでの観察にあたって実際に劣化試験を行った実電池からTEM観察可能な試料を作製することが最初の課題となるが、劣化模擬条件で発電試験を行った電池を解体し、電解質膜-電極触媒接合体(MEA)についてウルトラミクロトームにより薄片化した電子顕微鏡試料を作製した。この方法により電極触媒、電解質膜の構造をある程度保ったまま観察することができる。燃料不足、電位変動サイクル、高電位保持等のさまざまな条件での劣化試験後の試料について観察を行い[2]-[4]、TEM観察による粒子径分布測定から電極触媒粒子の粒子径が大きくなること、エネルギー分散型X線分光法(EDS)でアノードPtRu/C触媒からRuが溶出し、PtRu微粒子の組成が変化すること[2]、また図5に示すように試験条件に依存して、電解質膜中に電極触媒中の金属粒子が析出する現象等が観察された。この電解質膜中に析出した粒子はアノード、カソードに供給するガスの種類や電解質膜の厚さの影響で、その粒子径分布と析出粒子の空間分布が変化することがわかった[4]。図5a、bはカソードの電位を1.0 Vに保持し、窒素ガスを供給して膜厚が50 µm(図5a)、175 µm(図5b)の電解質膜を用いたときのカソード近傍のTEM像である。図中の下部がPt/C触媒層となっている。電解質膜の膜厚が薄い場合は、Pt/C触媒層近傍に多く粒子が析出している。カソードに空気を供給した場合(図5 c、d)は、窒素を供給した場合と比較すると析出粒子が触媒層から離れた領域まで分布する。このことからアノードから膜内を透過する水素の膜内での濃度分布が、膜中での白金粒子の析出分布に影響を与えているものと考えられる。電子顕微鏡による観察では図5に示したようなµmのスケールから、数nmの電極触媒微粒子までの構造評価が可能であり、PEFCのような実用材料においても微細構造解析の有用性を示すことができた。近年の電子顕微鏡技術の進歩はめざましくPt単原子の観察等も可能であり、電極触媒の構造についてより詳細なデータが得られるものと考えられる。また、電子顕微鏡の空間分解能の向上と共に、電子エネルギー損失分光法(EELS)の高感度化によりカーボンの電子状態を詳細に調べることも可能となってきており、カソード触媒のカーボンの劣化状態についても詳細な情報が得られることが期待される。4.3 モデルセルでの劣化メカニズムの解明起動・停止動作がPEFCの劣化を促進するということは経験的に知られていたが、2005年に米国の研究者が「逆電流メカニズム」によって劣化しているという説を提案した[5]。これは、アノード内に空気が残留している状態で燃料の供給を開始すると、一つのセル内に、燃料のある領域とまだ酸素が残っている領域が同時に存在するような過渡状態ができてしまい、その結果、酸素残存領域で局所的に逆向きの電流が生じるとともに、カソードの電位が局所的に高電位となり、電極材料であるカーボンの腐食をもたらすというものである。このような現象は、セルを外から観測するだけでは測定できないため、我々はこの「逆電流メカニズム」濡れの進行によるガス拡散性の低下通常、酸素と水素の反応による生成水は撥水処理したガス拡散層(カーボンクロスなど)で反応ガスとともに電池外に排出される。長時間の発電に伴うガス拡散層の撥水性の低下により水が滞留し、必要となる酸素が触媒層へ供給されにくくなる。耐CO被毒性の低下年単位の長時間発電では、白金-ルテニウム合金のルテニウムと一酸化炭素との活性サイトのブロック、ルテニウムの酸化、白金とルテニウムの分離が生じ、一酸化炭素耐性が低下する。炭化水素燃料から生成した水素を用いると1 ppm程度の一酸化炭素が混入。一酸化炭素が、白金の反応活性サイトに結合して、不活性化する。現在、白金-ルテニウム合金触媒を利用して、一酸化炭素への耐性を持たせているが、この合金でも劣化は生じている。アノード電極触媒層白金微粒子(5-2 nm)炭素粒子(1-0.1μm)一酸化炭素水素セパレーター白金微粒子電解質膜酸素ガス拡散層触媒層H+水カーボンペーパーカーボンクロスカーボンブラック固体高分子ガス流路ガス流路PEFC構造断面イメージ図4 スタック劣化のために重点的に取り組むべき二つの課題プロジェクト参画の企業保有の発電データを基に電池性能低下に係る劣化メカニズムとしての重要な二つの課題を抽出。

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