Vol.5 No.1 2012
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研究論文:家庭用固体高分子形燃料電池の実用的耐久性確保のための技術開発(谷本ほか)−54−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)スと酸素ガスで満たして直列に接続し、それにより発生した電気で電気分解を行う実験と思われる。電気化学プロセスを利用した発電手法は、その後の熱機関による発電方法の大幅な展開に比べて進展はしなかったが、当時の主力な燃料である石炭を活用した発電手法への技術展開の一つとして高温型燃料電池の基礎的研究が行われ、20世紀はじめに溶融塩や酸化物等を電解質とした燃料電池の研究が進められた。1921年には、溶融炭酸塩を電解質とする1.5 kWの高温燃料電池が実証されている。現在の燃料電池の基本構造となる正負極の多孔質構造の電極を電解質ではさむ構成が、1933年に電解質としてアルカリ水溶液、電極としてニッケル焼結体を用いるBacon電池で実証された。燃料(水素ガス)としての気体、電解質としての液体、電極の固体から構成される三相界面で効率的な電極反応を進める実用的な燃料電池構成を示した意義は大きい。実用的燃料電池の基本デザインとなるBacon電池が、米国の宇宙開発で宇宙船用の発電装置として特殊用途ではあるが実用化され、その後スペースシャトルでの電源としてアルカリ型燃料電池が搭載された。一方で実際の宇宙船用途で最初に用いられたのは、1965年Gemini 5号での燃料電池で、それはアルカリ型ではなくカチオン交換膜を電解質としたタイプで、宇宙船の推力源で使用される純水素、純酸素を用いる燃料電池であった。その後、前記のように宇宙用としてはアルカリ型が主流となっていく。他方でDu Pont社が、フッ素化炭素系のカチオン交換膜のナフィオンを開発したことにより性能が大きく向上した。1970年代に次世代発電技術としての民生用燃料電池システム開発が進められた。民生用途では、利便性から酸化剤ガスとして空気を用いることが好ましい。しかし、空気には二酸化炭素が含まれるためにアルカリ水溶液を電解質とする燃料電池では、二酸化炭素が溶け込み炭酸塩として蓄積されて性能低下を引き起こす課題があった。さらに、民生用の燃料電池では燃料の水素ガスも炭化水素から製造されるので、燃料ガスにも二酸化炭素が含まれる。そのため、民生用燃料電池開発は、二酸化炭素を除去する装置を加えるか、酸性電解質とすることが必要であった。そのため、アルカリ型と酸性のリン酸を電解質とした燃料電池の開発が並行して進められた。その後、長期の性能安定性の点からリン酸形燃料電池は民生用途として開発が進み、現在では100 kW程度の分散型発電システムとして発展して寿命としても6万時間程度、システムコストでも分散発電技術としての競争力のある技術として発展している。東日本大震災においても、停電時に代替の発電システムとして機能した例もあり注1)、耐久性とコストが実用化のために必要な課題とも考えられる。ナフィオン膜の開発後、1980年代後半に白金担持カーボンと水素イオン交換樹脂の電解質を混合し触媒としての白金表面を有効に利用して、使用する白金量を数分の1にする技術が開発された。これにより1990年代に米国、欧州を始め我が国でも民生用としての固体高分子形燃料電池(Polmer Electrolyte Fuel Cell: PEFC)の開発が開始された。分散型コージェネ用途や自動車用途等での開発計画が進められた。このように燃料電池には、長い開発の歴史があるが、実用化の例は限られている。実用化を目指した製品化のために、基礎研究から、開発、市場化に向けてそれぞれのフェーズで必要とされる研究の取り組みがある。産総研では、これらを基礎研究から製品化研究までを一貫して行う本格研究(Full Research)で取り組んでいる。燃料電池実用化を例とした本格研究の取り組みを紹介する。2 燃料電池の実用化に向けて燃料電池自体は水素と酸素を電気化学的に反応させて電気を取り出す発電デバイスであり、エンドユーザーが利用する製品の構成要素の一つである。そのため、燃料電池そのものは製品とは言えない。例えば、燃料電池自動車という製品で考えると燃料電池はその自動車を駆動させるエンジンであり、それを買い求めるかどうかは、燃料電池自動車という製品に対してのエンドユーザーの価値で判断されるであろう。その際に、エンジンとしての燃料電池の特徴であるクリーンで環境適合性に優れ効率的な発電システムであることが燃料電池自動車のもつ価値を高めることにはなるかもしれないが、いわゆる自動車としての価値はパワー等の走行性能および燃費等の経済性、価格で総合的に評価される。これまでの燃料電池技術開発では、実用化を目指して進めてきた。そこではその性能、コスト、耐久性について一つずつ取り組んできた。これは燃料電池技術がこれら3つを同時に解決できない技術的萌芽段階であったことに起因する。そのために研究開発段階から抜け出せない実状にあった。これは同時に内燃エンジン、二次電池等の競合技術に対して、燃料電池技術が常に未来の技術であったことを示すものでもあった。これは燃料電池技術だけの問題でなく、多くの次世代技術の基礎研究段階では実用化に向けた課題の同時達成が困難であるため、どれかに絞った課題で開発を進めることとなる。そのため目標とする課題開発が進むほど、他の技術課題が実用面で乖離していくという研究開発を進める上で常に研究開発者を悩ます難しさがある。燃料電池技術では、これを克服するためには製品の燃料電池のサイズを小さくし技術課題のハードルを下げつ
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