Vol.5 No.1 2012
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研究論文:シンセシオロジー論文における構成方法の分析(小林ほか)−52−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)で言えば、[5]西井準治:高機能光学素子の低コスト製造へのチャレンジ, Synthesiology, 1 (1), 24-30 (2008))がそれにあたります。これはガラスモールド法とインプリント法により「構造」の統合を行ったと考えられます。そして、この考えを発展させて、「これまで統合や構成が困難であると考えられていた複数要素間の複雑な構成方法」としてやや広い意味で使用しました。また、単なる概念ではなく“構造”、“要素”、“要求”、“機能”、“実体”等があるという意味の記述も含めて、第2章に追記しました。なお、基本型については論文としては過去に発表してはいませんが、文献[4]のレスタ―教授との議論の中で、筆者の一人(小林)が示したのが始まりになっています。議論6 実際の研究における基本類型の活用質問・コメント(小野 晃)この論文で提示された研究の構成方法(3類型への分類)は、実際に研究を遂行する際に役立ってほしいと思います。その意味で、この論文の3類型が妥当であるかどうかは、実際の研究遂行の場で有効に活用できるかどうかで検証されるべきものと思います。図1から図9までに示されたいろいろなスキームが、研究プロジェクトの企画、提案、体制作り、運営、評価等にどのように役に立てられそうか、お考えがあればお聞かせください。特に、筆者の一人である小林氏のSynthesiologyの論文「研究戦略の形成とそれに基づいた構成的な研究評価」(4巻1号)を参照した場合、この構成方法を研究評価へ活用できる可能性はいかがでしょうか。回答(小林 直人)とても有益な示唆を有難うございます。まさに、ここで提示した構成方法の3類型やその発展型が最適なものかどうかは、今後さらに実際の研究遂行の場で有効に活用できるかどうかで検証されるべきだと思います。一方で、これらを研究プロジェクトの企画、提案、体制作り、運営、評価等に役立てることは可能であると考えられます。例えば、近年イノベーションの創出を始めから意識した研究プロジェクトの企画・設計が求められていますが、そこでの要点は、①研究で開発すべき要素技術や使用すべき要素技術の特性と、それらの関係を明確にして上位の要素技術を構成し、それがさらに上位の要素技術や統合技術に構成していくという「論理的発展構造」をあらかじめ明確にしておくこと、②構成される統合技術を社会での試用を含む実際的応用に供して、その結果を迅速にフィードバックして次の構成にもっていくという「フィードバック・プロセス」の方法をあらかじめ組み込んでおくこと、であると考えられます。その際、まさに図1から図9までに示されたいろいろなスキームを念頭に活用していくことが可能ですし、全体的には図12に示された発展構造を応用することができると思います。また研究提案や研究体制の場合は、要素技術の代わりにそれぞれ「要素概念」「要素グループ」等を考えることができると思います。さらに、研究評価では、研究プロジェクトを評価する際の一連の評価プロセスへの応用が考えられます。その場合、研究成果を産み出した構成要素群(例えば技術的な要素群やマネジメントの要素群)を抽出して、それら自身の特性を評価するいわゆる「要素評価」を行うこと、次にそれらの要素群の関係や時間的発展関係を分析して、ある一定のまとまりの研究成果が産み出された過程を評価する「統合評価」を行うこと、さらにそれらの研究成果が将来どのようなアウトカムとして結実するか実際の応用からフィードバックして予想する「アウトカムの視点からの(フィードバック)評価」を行うこと、が可能だと思います。今回の論文の分析の過程では、企画や評価にも今回の構成方法が応用できるかどうかまでは考えませんでしたが、査読者のご指摘によりとても大きな可能性を秘めていることが分かりました。議論7 技術分野ごとの構成方法の特徴質問・コメント(上田 完次)第3章において技術分野ごとの分析がなされ、興味深い特徴が抽出されていますが、2点伺います。一つ目は、産総研の6つの研究分野は、一般の学問分野の定義とは異なり、社会的(ないしは政策的)要請に特徴付けられていますので、外部の読者にも分かるように、また、一般的議論に展開するためにも、分野の定義ないしは由来を説明する必要があるのではないでしょうか。二つ目は、そのような分野のそもそもの特徴が、構成方法の特徴を裏付けているのではないか、すなわち、例えば、戦略的特徴の強い分野が戦略的選択型構成方法になっているというような、自己撞着的な説明に陥ってはいないでしょうか。回答(小林 直人)第1点目ですが、ご指摘のとおりですので、分野の定義については、第4章の終わりに記述を追加しました。また、第2点目ですが、ご指摘のとおり、標準・計測分野においては、戦略的目標が明確であるために結果的に戦略的選択型構成方法が多く採用されていることが分かりました。ただし、この方法はむしろ他分野(環境・エネルギー分野)の論文をいくつか検討している間に見い出したものであり、それが標準・計測分野でも結果的に多く見られたということだと思います。また、戦略的選択型構成の中にも技術のブレークスルーになるものが多く含まれていることもご理解いただければと思います。議論8 シナリオの仮説形成に関する事例コメント(上田 完次)構成学の本質の一つは、解が一意的ではないため、ありうる解候補の提示、または有効な解に至るシナリオの仮説形成です。分析した各論文では、どのような仮説形成がなされたのかを論じることが必要ではないでしょうか。回答(小林 直人)仮説形成をしてそれを実現し、それをもとにシナリオを明確化し、さらに次の仮説形成によりシナリオを高度化するということを繰り返すことによって製品化・商品化が示された例として、大場氏による「大場光太郎:実時間全焦点顕微鏡の開発・製品化, Synthesiology, 2 (4), 264-275 (2009).」[45]が挙げられると思います。ここでは、初期において開発した幾つかの有望な要素技術をもとに製品化を目指しました。初期においては、仮説形成として「高性能の光学顕微鏡の実現」というやや漠然としたものでしたが、幾つかの企業と出会うことでフィージビリスタディを実施して試作品を完成した後に、仮説をさらに高度にしてそれを実現するシナリオを明確にするという過程を繰り返しました。その過程で戦略もより明確になり、最後に商品化が実現しました。ここで、有効な解に至るまでに数々の企業との出会いがあったことがとても大きな意味があったと筆者が述べていますが、仮説形成に基づく構成学の好例であると思い、この論文第5章であらためて言及しました。
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