Vol.5 No.1 2012
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研究論文:シンセシオロジー論文における構成方法の分析(小林ほか)−48−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)るのは、こんなことができるか、といった技術的なインパクトが一目で分かることである。石川[51]や大場[45]の研究に見られるように、持ち運びができる長さ標準器や実時間全焦点顕微鏡等はその例である。展示会に参加する人やサンプル提供を希望する人は、新しい技術を探索している人であり、積極的に技術を取り込む態度で臨んでいる。その一方で、現場では大きな変革を望まない場合等、課題を理解しながらも必ずしもその解決には積極的になっていない場合もある。例えば木下による研究[52]で見られるように、システム検証のための技術移転では、技術の提供側が積極的にフィールドの中に入っていって、現場を巻き込みながら一緒になって進めるという方法も行われる。また、技術として優れていることは分かっていても、製造技術の問題等で、その技術の導入を躊躇してしまうこともある。このようなときには性急に導入を推進するのではなく、むしろ時間をおいて、その技術の価値をじっくりと理解してもらって、自律的に導入が進むようにした方がよいと、セラミックス粉体技術を用いて紫外線防御化粧品を開発した高尾らは主張している[32]。コンシューマプロダクトのように普及させる規模が大きい場合には、性能的なインパクトだけではなく、感性的なインパクトも必要になる。このとき、久保らによるIH調理器の研究[20]で述べられているように、開発メーカーだけが機能するのではなく、マスメディアや感性的リードユーザーと呼ばれる消費者に先行した感性をもった人達が製品の新しい使い方を提案することで価値向上を牽引することがある。また、インフラも含めた総合的なシステムによって構成されている場合には、性能向上とコスト削減を両立させるための産業界内での連携も有効である。池田らの研究[19]が示すように、カーナビの実用化のプロセスにおいては、各社の競争部分と共同開発や標準化する共通部分とを戦略的に明確化して推進した。これによって社会への導入が進んだと言える。製品に組み込んでもらう要素技術開発のフェーズ、要素技術から製品に組み上げるフェーズ、ある程度製品化が済んだ後に産業として確立していくフェーズ、消費者に製品を浸透させていくフェーズ等、何段階かの構成のフェーズがあるが、産業界で技術ニーズが明確になっている場合と明確になっていない場合では取り組みが異なってくる。後者の場合にはより困難が伴うことから、試用の提供だけでなく、製品としてのインパクトを見せたり、積極的にステークホルダーの中に入っていくことも行われるが、機が熟すまであえて待つという戦略もある(表2)。6 おわりにSynthesiologyの論文を対象に、構成方法を分析し、その特徴抽出を行った。Synthesiologyの研究論文の特徴は、まず研究者自身が社会的な目標を明確にしたうえでそこに至るために克服すべき課題を設定して、それらをどのように解決するかのシナリオを設定し、それに沿って実践していくことによって研究成果に結実していった過程を構成学の論文として記すことである。70編の論文を小林による3類型を基本として論文への掲載内容から分析したが、不明瞭な場合には筆者に問い合わせることも行った。戦略的選択型であるかブレークスルー型やアウフヘーベン型であるかは、コアとなる技術の実現の困難さによることになるが、ブレークスルーやアウフヘーベンと呼べるかの判断は我々の主観によらざるを得なかった。また、論文では、全体の戦略が強調されている場合と、要素技術のブレークスルーが強調されている場合があると思われるが、ほとんどの論文が研究実施者によって書かれていることから、研究実施者の視点から見ての構成の重要なポイントが記載されていると判断した。研究成果を社会に活かしていくことを指向して行われる第2種基礎研究においては、「技術的な構成」とも呼ぶべきものがあり、幾つかの構成の基本形というものが見られた。また分野ごとの特色としては、構成要素の数や規模によって多様性の違いや、出口との擦り合わせの方法に違いがあるものの、戦略に基づく要素技術の組み合わせと社会での試用との対比によるフィードバック・プロセスが必要であることが明確となった。特に後者においては社会での実際のニーズとの相互作用により、フィードバック・プロセスを何回も回していくスパイラル・アップとも呼ぶべきダイナミックな構成方法が極めて重要であることが認識された。一方、研究成果を社会に導入させていくためには、さらに「社会導入に向けた構成」と呼ぶべきものを連続して起こすことが必要であることが分かった。その際何段階かの• 感性的リードユーザーによる製品の使用価値の付加• 異業種との連携と、競合他社との連携・標準化による競争と共同関係の構築産業としての確立・拡大ステークホルダーへの技術導入促進• 時間をかけた新技術の価値の理解• 現場に入って共同して課題発見を行なって理解を促進試作品の幅広い試用機会の提供• 試作製品のターゲットユーザーへの貸出し、公開試用版による不具合抽出、必要機能の抽出。• 製品の形にして、実現機能のインパクトを表現要素技術の展示やサンプル提供• サンプルで機能をみせて新技術のインパクトを呈示• サンプル試用からのフィードバックで技術課題・研究課題を抽出産業界でニーズが明確化されていない場合• 計量標準のトレーサビリティ体系の構築• 新技術に適合した製造技術の開発産業界でニーズが明確化されている場合表2 社会導入のためのシナリオ例

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