Vol.5 No.1 2012
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研究論文:シンセシオロジー論文における構成方法の分析(小林ほか)−47−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)せの方法に再びフィードバックされ、その組み合わせ方法の変更や進化が行われる場合もあれば、要素の構成方法の進展に伴って戦略性が進化し、より明確な目標になっていく場合もある。後者の例としては大場による「実時間全焦点顕微鏡」の研究開発が挙げられる[45]。ここでは要素技術が統合されて上位の要素へと構成されていくにしたがい、それまでやや曖昧であった目標がより明確にされ、最終的に3次元実時間全焦点顕微鏡に統合され、商品化されていくというプロセスが示されている。初期においては、「高性能の光学顕微鏡の実現」というやや漠然とした仮説形成で出発したが、幾つかの企業と出会うことで試作品を完成した後に、仮説をさらに高度にしてそれを実現する戦略やシナリオを明確にするという過程を繰り返し、最後に商品化が実現した。その際、多くの企業との出会いが仮説の検証と高度化を導いたということは特筆すべきことである。構成が進むにしたがって、構成物が研究成果として社会との接点をもつようになり、そこで「社会での試用」が行われる。ここでスムーズに社会導入が始まることは極めて稀である。ここに次のフィードバックループがある。すなわち「社会での試用」が行われることによって、さまざまなステークホルダーからの反響がフィードバックとしてかかり、新たな戦略性が持ち込まれる。あるいは、戦略そのものよりも要素の選択と組み合わせにフードバックがかかることもある。第3章(2)のライフサイエンス分野で示された諏訪らによるバイオインフォマティクスの例は、研究成果を利用する研究者から有効なフィードバックがかかり、それが戦略やシナリオ構築に繋がり、そのループが何回も回っていくという螺旋構造を示すことはすでに述べたとおりである。また第3章(6)で示した地質の例では、社会のニーズが次第に変化していくにつれて、地質現象の理解もそれによるモデル構築も進展していき、戦略や構成方法へのフィードバックが連続的に起こることを示している。一方、構成の結果を社会的な接触や現場での試用等をとおしてフィードバックをする際、時間を意識したダイナミックな構成の動きも大切である。それを示す象徴的な例として、近年の我が国の半導体産業の国際競争力低下に関する中馬による分析があげられる[46]。半導体チップ上に必要な機能をシステムとして集積する設計手法として、SoC(システム・オン・チップ)があるが、そのクロック速度が極めて早くなるにしたがって、各要素間の応答遅延速度、転送速度、各種作業を連繋させるコミュニケーション構造の3つがシステム設計の中心課題になる。すなわち要素技術の関係を極めて動的に捉えることが必要となる。中馬によれば、日本企業の開発システムがそのダイナミックな動きについて行けなかったことが、製品の国際競争力低下の原因である、としている。この論文におけるさまざまな事例の検討から、どの構成方法においても各要素技術間の関係が厳密に関連付けられて構成されていることが明らかになったが、それらの関係は時間的に連続しており、並列性や相互交換性のようなダイナミックな動きがまだ多くは現れてきていない。今後、研究開発の競争が熾烈さを加えるにつれて、要素間の連繋のよりダイナミック動きや早いフィードバック、それによる研究開発のスピードアップも必要となるであろう。(2)社会導入に向けた構成の方法最後に大きな課題として「社会導入に向けた構成」がある。石井[47]、藤井[48]、大澤ら[49]による研究で述べられているように、計量標準のようにトレーサビリティを確保することが社会導入のポイントとなる場合には、校正事業者等によって作られる社会体系を構築する必要があり、実現できるトレーサビリティ体系に応じた計測技術を見極める必要がある。また、社会の側にニーズが、例えば記憶容量のように具体的な性能指標として明確化されている場合には、そのニーズに応えられる技術であれば比較的迅速に技術が導入されることになる。湯浅らによる研究[22]に見られるように、このときの社会導入の課題としては生産技術も重要になる。しかし、多くの場合、社会導入には技術開発とは独立・並立的に社会的な行為が要素に入ってくる。例えば、機能性以外の感性等の別の価値の付与やインパクトあるコンセプト等が社会導入を促進する。また短期的に社会導入を推し進めるのではなく、必要な要素の種を蒔いて自律的に構成していくことを促すことも求められよう。そして、技術を一方的に提供するだけなく、社会からのフィードバックにどう応えるかということが重要になる。実際に使える技術になっているかを評価してもらう方法としては、サンプルを提供したり、展示会での展示等による試用が多く行われる。例えば浅川らの研究[28]に見られるように、有機ナノチューブ等も使ってみることでその技術の価値をはじめて理解してもらえることも多い。それとともに佐藤(雄)らの電動車いすの研究[27]で見られるように、開発者とユーザーが同一でない時には、開発サイドでは想定していなかったニーズの吸い上げも行われる。また中島[21]、江渡[50]の研究に見られるように、ソフトウエアはフィールドでの長期に渡る試用が製品としての信頼性等の技術課題の抽出に有効である。こういった試用によるフィードバックは、製品化を実現するために必要な技術開発を定めるステップとなる。主な技術課題が解決しておよそ製品として使える物ができても、それが社会に広まっていくためにはさまざまな要因が関わってくる。そのきっかけの一つになりう
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